【座談会】小島✖︎松本✖︎川﨑  独禁法・消費者法分野における危機管理  〜実効性ある体制構築に向けて〜

 

 

小島✖︎松本✖︎川﨑 事務所対談

 独禁法・消費者法分野における危機管理

 〜実効性ある体制構築に向けて〜

 

顧            問:小島 吉晴

客員弁護士:松本 恒雄

パートナー:川﨑 由理

 

 

-川﨑弁護士

本日は、小島吉晴(公正取引委員会前委員)、松本恒雄(国民生活センター前理事長)とともに、「独占禁止法・消費者法と危機管理」というテーマに関して、お話しさせていただければと思います。

まず、危機管理とは、一般的に「事業で危機が発生した際にその被害を最小限に抑えるための事後対応」を意味しますが、対行政、対ステークホルダー、対マスコミなど、色々な軸での対応が必要となります。当事務所は規制官庁での勤務経験者が数多く在籍しておりますが、さらに9月1日より公正取引委員会前委員の小島さんが当事務所のメンバーに加わることになりました。

公正取引委員会といいますと、つい最近テレビドラマの舞台として初めて取り上げられ、「公正かつ自由な競争の確保」というキーワードや、審査局がどのような仕事をしているかなどが、一般の方にも知られるようになってきたのではないかと思います。

ただ、なかなかイメージしにくいところもありますので、まずは小島さんの公正取引委員会委員としてのご経験を少しお話いただけますでしょうか。

 

 

-小島氏

テレビドラマの話が出ましたが、事件の審査のなかで、立入調査をするかしないかを、審査長が委員長や委員会のところに行って了解を取るというシーンがあったと思います。勿論テレビなので実際とは違いますが、公正取引委員会で例えば審査局が「事件をやります」と言った場合に、委員長以下5名からなる委員会で事件として立件するかどうかという判断を決議することになります。

立件されると、事務総局、審査局の方で審査し、ある程度証拠が揃った段階で委員会が開かれ、最終的な処分を決めるという流れです。

また、最近は排除措置命令以外にも確約手続があり、最終的な処理を確約にするのか排除措置命令にするのかの方向性を決める、中間的な判断というものも最近は多くなってきています。事件審査以外ですと、独禁法の改正案や規則の制定、実態調査など、委員会は様々なことに関わっています。

 

-川﨑弁護士

実態調査の話が出ましたけれども、例えば今年の6月末にはクラウドサービス分野の取引実態に関する報告書が出ています。実態調査をするかどうかは、どうやって決まるのでしょうか。

 

-小島氏

基本的には、実態調査を担当している複数の部署から調査を行いたい取引分野の希望が出され、事務総局で調整を行なった上で、実際に実態調査をするかどうかは委員会に報告されて了承を得ています。実態調査を行なう際に、事実上強制力を持った報告を求めることができる独禁法40条に基づく調査権限を行使するとなると、やはり委員会の了承はとっておいた方がいいだろうということです。そして実際に調査を行った最終案文がまた委員会にかけられ、各委員から様々な意見が出され、それらの意見も踏まえて案文の修正等を行って最終的な報告書が作成されることになります。

 

 

 

-川﨑弁護士

調査作業そのものには関与はされていないとしても、調査を行なうか否かから、調査結果の最終案文の検討までも委員会が携わっているのですね。

さて、当事務所は規制官庁での勤務経験者が非常に多く在籍しておりますので、手続きの流れは当然に熟知しておりますし、調査における勘所といったところの知見もありますので、特に行政対応については、当事務所の知見が活かせるところではないかと思っております。

独占禁止法違反や景品表示法違反は起こさないに越したことはないわけですが、起こしてしまった企業の対応の巧拙をどのようにみておられますか。

 

-小島氏

いわゆる独禁法違反と思われる事案が経営陣に上がってきた際の、経営陣の対応ぶりが重要だと思います。内部通報などから発覚することがあるかと思いますが、こんなのがあったんだなと聞き流すのか、その時点で真摯に取り上げて対応するのか、会社のコンプライアンス体制とも絡む話ですが、その後の再発防止にもつながる話だと思います。経営陣サイドとしては、それを真剣に受け止めた上でかつ早急に事実関係の調査をしないといけません。しかも、その事実調査の体制として、監査とか法務とかが独立性を持っているところであればともかく、そうでないところは、慣れ合いを防ぎ、質の高い調査をするために、やはり法律事務所のような外部の協力を得て、ただちに調査をするというのが大事だなと思います。

さらに、独禁法の場合ですと、いわゆる減免申請(リニエンシー)をするかどうか。これも早急に結論を出さないといけない。加えて、私が委員でいる間に調査協力減算制度というのが法改正で入りました。課徴金の減額の程度が、協力の度合いに応じて上がってくるという制度に変わりましたから、それも積極的に活用する方向で考えないといけないと思うのです。

独禁法絡みではこのような最初の対応というのは非常に大事だなと。そこで経営陣の方で、「これはもう積極的に事案の解明に協力して課徴金も最大限の減免を得るんだ」と、「そのためにはお前ら一生懸命やってくれよ」と言えば、その後の社内の協力だけではなくて、そこから先に向けての再発防止にも繋がるのではないかなと思います。

 

-川﨑弁護士

危機が発生した場合の事後対応にプラスして、危機を発生させないための仕組みづくりも重要と考えているところです。消費者法の観点からどんな仕組みを取り入れていく必要があるかお話しいただけますでしょうか。

 

-松本弁護士

この点では、2003年に内閣府の国民生活審議会の消費者政策部会が公表した「21世紀型の消費者政策の在り方について」がいくつかの提案をしていますが、その中の一つにコンプライアンス経営のための自主行動基準の策定・運用というのがあります。これが参考となります。その後、消費者基本法に自主行動基準の作成が盛り込まれましたし、個人情報の保護に関する基本方針という閣議決定の中に各企業がプライバシーポリシーを制定・公表して行動しましょうという考え方が入っています。また、景品表示法にも法令遵守体制の整備義務が規定されました。

このような一連の流れは、企業として、自分たちの行っている行動がどういう形で問題を起こしかねないかを予め点検したうえで社内の体制作りを行いましょう、具体的には教育だとかチェックだとか、ヘルプラインや報告ルートだとかをきちんと作ってやっていきましょう、そしてその方針・ポリシーを公表して消費者に見てもらって、企業への信頼を得てくださいというものです。ただし、自主的ルールを作って終わりでは駄目なのです。PDCAサイクルを回すということが重要です。

 

 

21世紀型の消費者政策」には、他にも、公益通報者保護制度を導入しましょうという提案がありました。2004年に公益通報者保護法ができましたが、企業の義務は、通報者の解雇の無効や不利益取扱いの禁止など労働法の特則にとどまっていました。公益通報者保護制度の本来の狙いは、風通しのよい社内体制を作り、なにか問題があれば、すぐ経営陣の所に情報が上がってくる体制構築を行わせる点にありましたが、提案の意図が十分に生かされていなかったわけです。この点、2020年の公益通報者保護法の改正によって、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備が義務づけられるとともに、内部調査に従事する者に、通報者を特定させる情報の守秘義務が課されるなど、本来の提案に即した仕組みが盛り込まれました。

また、行政のチェックとは別に消費者団体の目も企業に意識させましょうという提案についても、2006年の消費者契約法改正の際に消費者団体訴訟制度として導入されました。

21世紀型の消費者政策」の様々な提案のうち、一つだけ現在でも未導入なものがあります。アメリカで行われているいわゆる連邦量刑ガイドライン的な考え方です。これは、企業が違法行為をした場合に、企業に対する制裁の軽重を当該企業の事前の取り組みなどを考慮して決めるという考え方です。言い換えれば、裁量型の課徴金制度のようなものを導入しましょうという考え方です。その後、課徴金制度自体は景品表示法の中に入りましたが、課徴金の率は一律です。私の個人的見解としては、適正な法令遵守体制を整備させるインセンティブを与えるためにも、体制整備義務と連動させていく必要があるのではないかと思っています。

 

-川﨑弁護士

景品表示法の場合は、独禁法のリニエンシーの規定などを参考にして作られたものの、課徴金が半額になるという効果しかなく、そうすると申告しても違反行為自体は認めたということになり、措置命令または課徴金前提で調査が進んでしまいます。また、企業側がいかにその行為を今はもうやっていませんと公表したとしても、既に行った行為によって消費者の選択を誤らせたという法益侵害が生じていますので、処分する必要性があるという判断に振れやすいのではと考えています。また、景表法の違反要件として、故意・過失を問わず、結果として一般消費者を誤解させたらだめだということになっています。ですので、事業者側からすると、申告すると当然藪蛇になる恐れがあるということ、かつ故意・過失が問われないのであれば申告しないというインセンティブが働くことも多いと思います。不当表示の早期発見・防止を制度趣旨として作ったにも関わらず、逆に使われていないという状況は非常に課題があると感じています。したがって、自主的な取り組みがどれだけできたのかによって課徴金の高低を決める裁量型課徴金を導入するなど、自主的取り組みを行うインセンティブを与えることは非常に重要だと思いますね。

 

-松本弁護士

事前に申告できたということは社内体制がそれなりに整っているからこそ違反行為を見つけられたということだと思うので、そのことをもう少しプラス評価するということも必要です。あるいは外部からの苦情や通報が社内調査の端緒になることもよくあると思いますが、消費者庁が動くより先に自分達で行動を起こしたということはもっと評価されてもよい気がします。

 

-川﨑弁護士

適正な体制整備を促すための一つの方法として、エンフォースメントの高低を体制整備の程度と連動させるという話がでましたが、公正取引委員会前委員の立場から見た時に、例えば、排除措置命令相当か確約相当かを検討する際、自主的な体制整備の内容はどの程度評価されることになるのでしょうか。

 

-小島氏

排除措置命令は、違反行為を明確に証拠上認定しなければいけません。一方、確約は違反行為を認定するわけではありませんので、排除措置命令と確約とでは、証拠の収集の程度、かつ収集した証拠からどのような事実を認定するかという点で、両者の間には圧倒的な違いがあります。排除措置命令を出すとなると、証拠の収集等に時間と手間が非常にかかるので、その間、公正で自由な競争が侵害されている状況がずっと続いてしまうことになります。ある程度疑いがあるということが判明した時点で、企業サイドから自主的に公正で自由な競争秩序を回復しますと申し出るのであれば、独禁法の目的である公正で自由な競争の確保という観点から、早期にそのような環境が回復される方がいいのではないかという考えから確約を行うということになるわけです。企業からの申し出が、公正で自由な競争の回復につながるかどうかの評価は、ケースバイケースの判断になると思います。

 

-川﨑弁護士

少し前に、おとり広告で措置命令を受けた大手飲食チェーン店がありました。その会社は、措置命令後に監査等委員会が調査報告書を公表して再発防止体制を構築したにも関わらず、その後も、始期の書かれていないキャンペーン広告をキャンペーン開始前に店頭掲示してしまったり、使用されていた食材の種類が表示と異なっていたという問題を立て続けに起こしています。再発防止が上手くいく例といかない例、どういった違いがあるのでしょうか。

 

-小島氏

独禁法の排除措置命令の中にも、企業サイドとして公正で自由な競争を維持するために、例えば、従業員に対しての教育をやってくださいということは従来から命令してきています。また、確約においては、排除措置命令の内容と比較すると、どのレベルの従業員に、どういう内容の研修をどれぐらいの回数やるのかといったかなり具体的な内容まで確認して承認することになります。したがって、そこまでのことをやっていただければ、おそらく独禁法違反という事態は生じないはずなんです。

ただ、実のところ、会社の内部の人間ではどうしても甘くなるところがあると思います。今までこれでやってきたのになんで変えないといかんのですかと言われると、上手く説明できないこともあるのではないでしょうか。外部の弁護士など専門家が入ってしっかりと現場の状況も聞いてもらった上で、こうした方がいいのではないかと言われて初めて納得できることもあると思います。

やはり内科的な手法ではなくて外科的な手術でないとよくならないというケースもあるのではないかと思います。外部の第三者委員会は外科的な手術にあたると思いますが、会社の不祥事にはそこまでやらないと治りきらないというケースも結構多いと思います。

 

-松本弁護士

それに加え、やはりPLANだけでDOCHECKACTIONができていないと再発防止にはならないですよね。それと、従業員に対する評価方法がかなり重要で、消費者問題の実例からは、販売員がどれだけ売上を上げたかによって収入が比例していくようなやり方では、やはり違法なこともやりかねないと思います。

 

-小島氏

教育を受けた従業員がどこまで腹に落とし込んでそれを守ることができるかどうかも重要だと思います。独禁法違反や消費者法違反は、従業員個人のためではなく、もちろん会社のためを思ってやった行為の結果であることが多いと思いますが、それは最終的には会社のためにはならないんだということが従業員の個々人にも分かる仕組みまで構築できることが必要だと思います。例えば、独禁法違反や消費者法違反の行為は、懲戒対象の行為として明示することも、考えられるかと思います。

さらに大企業では、ある事業部門で問題が起こっても、他の部門は「あれはそっちの部門の問題だ」ということで真剣に受け止めないことがあります。でもその真剣に受け止めないのを是正するのは実は経営者層だと思うんです。

そのような場面で外部の弁護士が経営者の方々に危機意識を持ってもらう方向で話をするとともに、積極的にお手伝いをすることは非常に大事なことだと思います。

 

-川﨑弁護士

当事務所でも再発防止体制の構築に向けたアドバイスを数多く行っていますが、現場で活用でき、運用されるルールを提案することは非常に重要だと思っています。現場からヒアリングをした上で、どの部署が何をやるのかといった細部まで踏み込んだルール作りをご提示してきましたが、生きたルールづくりの重要性を再認識しました。

 

 

 

詳細情報

執筆者
  • 松本 恒雄
  • 小島 吉晴
  • 川﨑 由理
取り扱い分野

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