【I&S インサイト】規制強化に向かう薬機法の広告規制

執筆者:川﨑由理

 

2020年7月、医薬品として承認を受けていない健康食品について、身体的な機能を改善する効果があるかのような記事広告を行ったとして広告主、広告代理店及び制作会社の役員従業員等が薬機法違反(未承認医薬品の広告禁止)の疑いで逮捕されました。

 

広告表示に関する一般的な法規制としては景品表示法を思い浮かべることが多いですが、景品表示法における執行の対象は、「自己の供給する商品又は役務の取引」について表示を行なっている事業者です。いわゆる広告代理店や広告物制作会社が執行の対象となることはありません。

したがいまして、今回、特定の「広告」をしたということを理由として広告代理店や制作会社の役員や従業員が身柄を拘束されたという点で、驚かれた方も多かったのではないかと思います。

 

とはいえ、今回の身柄拘束の原因となった根拠法令が薬機法であることからすると、特別驚くような話ではないのです。法律の規定から当然に予定されているところになります。

つまり、薬機法においては、「広告」規制の対象者を「何人も」と規定しているのです。広告代理店や広告物制作会社の役員等であっても違反広告を掲載した場合には、当然に執行の対象になりえるのです。

 

薬機法、正式には、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」は、広告を行う企業において景品表示法とともに必ず検討が必要であると言っても過言でないほどに重要な法規制になりますので、今回の記事では、薬機法の広告規制にフォーカスしてみたいと思います。

 

薬機法には大きく2つの広告規制があります。

すなわち、誇大広告等の禁止(第66条)と未承認医薬品等の広告の禁止(第68条)です。

(この他、第67条に、がん、肉腫及び白血病といった特定疾病に使用されることが目的とされている医薬品及び再生医療等製品の広告の制限に関する規定もありますが、一般の企業が扱う可能性が低い製品になりますので、今回の記事では取り上げません。)

 

条文の規定は、以下のとおりです。


(誇大広告等)

第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない

2…

3…

 

(承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止)

第六十八条 何人も、第十四条第一項、第二十三条の二の五第一項若しくは第二十三条の二の二十三第一項に規定する医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ第十四条第一項、第十九条の二第一項、第二十三条の二の五第一項、第二十三条の二の十七第一項、第二十三条の二十五第一項若しくは第二十三条の三十七第一項の承認又は第二十三条の二の二十三第一項の認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない


 

薬機法の広告規制は、規制が広範囲に及んでいるという点に特徴があると思われます。

 

すなわち、上述したように執行の対象となる主体について、「何人も」と規定されており、限定がありません。広告主だけでなく広告代理店や広告物制作会社であっても執行の対象になります。会社でなく個人であっても同様です。

 

また、第68条においては、景品表示法で求められるような表示内容から受ける認識と実際の商品との差は問題となりません。仮に、表示どおりの効能、効果又は性能があったとしても、承認又は認証を受けていない製品である以上、第68条の規定に違反することになります。

 

なお、いずれの規定も「広告」することを禁止していますが、この「広告」については、平成10年9月29日付け厚生省医薬安全局監視指導課長通知が発出されています。

すなわち、

 ・顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること。

 ・特定医薬品等の商品名が明らかにされていること。

 ・一般人が認知できる状態であること。

の3要件を全て満たす場合に、「広告」に該当するものと判断するとされており、広告媒体に限定はありません。例えば、個人のブログやホームページであっても上記要件を満たす場合には、規制の対象になります。

 

このように、規制範囲の広い広告規制ではありますが、これらに違反した場合どうなるのでしょうか。

 

現時点では、未承認医薬品等の広告規制に違反した者に対しては中止命令が下される可能性があるほか、誇大広告及び未承認医薬品等の違反広告を行ったものに対して刑罰が科される可能性があります(違反広告を行ったものが法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者である場合には、法人若しくは人に対して罰金刑が科される規定も存在します。)。また、薬機法上の業許可を持った事業者が広告規制に反する行為を行った場合には業許可を取り消されることもあります。

 

とはいえ、現時点では薬機法上の広告規制した場合に被る不利益は必ずしも大きいものとはいえません。例えば、第66条第1項の虚偽・誇大広告に違反した場合の罰金は実際の行為者である個人及び法人ともに200万円以下であり、違反広告によって得ることのできた金額によっては抑止力のある規制にはなっていません。また、違反広告は、薬機法上の業許可を持たない事業者により行われる事例も多くあり、そのような場合、許可の取消しといった行政処分を行うことができず、そういった観点からも抑止効果が働きにくい状況でした。

 

このような状況を打開するため、虚偽・誇大広告(法第66条第1項)及び未承認医薬品等の広告禁止(法第68条)に違反した場合に措置命令という行政処分を下すとともに、虚偽・誇大広告によって医薬品を販売した企業などには課徴金を科す制度が創設されました(施行日は、令和3年8月1日)。新たに設けられる課徴金制度では、虚偽・誇大広告を行った企業などに対し、違反行為を行った期間を対象に、該当する製品の売上高の4.5%を課徴金として徴収できることになります。自主的に違反を申告した場合には課徴金が半分に減額されるほか、業務改善命令や業務停止命令を行った場合は課徴金の納付を命じないこともできるということが規定されています。

 

このような新しい規制手段が加わることにより、施行後は、措置命令や課徴金納付命令を含めた執行事例が増えることが予想されます。今後広告表示を行う場合には、薬機法に抵触するおそれがないか否かについてこれまで以上に十分な検討が必要になってくると考えられます。もちろん現在広告をしている事業者におきましても、同様の観点から再度の確認が望ましいと考えられます。

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  • 川﨑 由理
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