【I&S インサイト】後発医薬品事業における独占禁止法違反を防止するために
DATE 2025.06.23
執筆者:越田 雄樹
はじめに
後発医薬品の使用数量は過去15年間で約35%から80%と需要は増加する一方で、令和3年2月の小林化工(福井県あわら市)の事件(薬機法違反:令和3年2月9日)を端緒に法律違反で行政処分を受ける事業者が相次いだことも相まって、後発医薬品を含めた医薬品の供給不足は加速しています。
そのような中で、後発医薬品を安定的に供給するためには、品目統合や企業間の連携・協力、事業再編が重要となる一方で、これには独占禁止法の遵守が課題となります。
そして、公正取引委員会と厚生労働省は、令和7年2月17日に「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造改革のための独占禁止法関係事例集」(以下「事例集」といいます。)を公表しました。
この事例集は、令和6年5月22日付で公表された、後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会(以下「検討会」といいます。)の議論を整理した報告書の内容を受けて策定されたものです。
本稿では、事例集の内容を踏まえて、後発医薬品事業において独占禁止法違反を防止するために必要な事項などを整理します。
後発医薬品業界と独占禁止法
今後の後発医薬品の産業発展を考えるにあたって、そもそもなぜ医薬品・後発医薬品に関連する事業者が独占禁止法違反となる事例が多いのかを整理する必要があります。
この点、後発医薬品の供給事業者において独占禁止法違反となる行為が見られやすい理由は主に以下のとおりであり、これらの理由によって価格競争が避けられ、それにより価格カルテル等の行為につながるケースが見られます。
①薬価制度の存在
医薬品薬価制度が存在することで、最終的な販売価格が固定されており、各事業者は原材料費の値上がり分を価格に転嫁できず、各事業者が負担しなければならないなど厳しい環境下にいます。
②後発医薬品の安定供給の責任
「薬価基準収載医薬品は、全国レベルで保険医療機関又は保険薬局の注文に応じて継続的に供給することが必要であることから、後発医薬品(薬価基準収載後、3ヶ月を経過していないもの、及び「医療用医薬品の供給停止について」(平成10年10月7日経第56号厚生省健康政策局経済課長通知)に規定する手続きを経て「薬価基準削除願」が提出されたものを除く。以下同じ。)についてその安定供給の要件を以下のとおり規定するので、後発医薬品の製造販売業者は、その遵守に努めること。」(「後発医薬品の安定供給について」平成18年3月10日 医政発第0310003号)とされているとおり、後発医薬品の供給事業者は後発医薬品の安定供給の責任があり、市場撤退が容易ではありません。
③供給事業者の数
後発医薬品の供給事業においては設備投資や品質管理が難しく、大手数社が主要な供給事業者になることが多く、供給事業者が限られています。
事例集の概要
公正取引委員会は、事例集では、品目統合や企業間の連携・協力、事業再編について、独占禁止法上問題とならない行為等の事例を整理しています。
例えば、公正取引委員会が独占禁止法違反にならない行為として下記の12事例を挙げています。
(1)企業結合
(2)情報交換
(3)品目統合
(4)共同生産・製造委託
(5)共同調達
(6)共同配送
(7)その他の企業間の連携・協力
(上記につき引用元 事例集)
最後に
後発医薬品の供給事業者においては、自らが属している後発医薬品業界の構造、特有の事情が独占禁止法違反を誘発しやすいものであることを理解したうえで、事例集の各事例を踏まえた自社事業の適法性チェックに加え、社内の独占禁止法に係るコンプライアンス体制を構築していく必要があります。
コンプライアンス体制の構築については、例えば、令和7年6月20日、公正取引委員会は、独占禁止法を踏まえたコンプライアンスが実効的に機能していないことが疑われる事案が引き続き発生していることを理由の一つに、「企業における独占禁止法コンプライアンスプログラムの整備・運用状況に関する実態調査報告書」(以下「コンプライアンス報告書」といいます。)及び「実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムの整備・運用のためのガイド」(以下「コンプライアンスガイド」と言います。)を改訂しており、非常に参考になります。
コンプライアンス報告書及びコンプライアンスガイドでは、独占禁止法違反を未然に防止するために、下記のような施策などを示しています。
なお、①から⑤まで及び⑭の施策は、独占禁止法違反行為の未然防止・早期発見等に向けた⑥から⑬までの施策の全てに関係しており、①から⑤まで及び⑭の施策に適切に取り組むことで、その他の具体的な施策が実効的に実施されるものと考えられるとされています。
① 経営トップのコミットメントとイニシアティブ
② 自社の実情に応じた独占禁止法違反リスクの評価とリスクに応じた対応
③ 独占禁止法コンプライアンスの推進に係る基本方針・手続の整備・運用
④ 組織体制の整備及び十分な権限とリソースの配分
⑤ 企業グループとしての一体的な取組
⑥ 競争事業者との接触に関する社内ルールの整備・運用
⑦ 独占禁止法に関する社内研修の実施
⑧ 独占禁止法に関する相談体制の整備・運用
⑨ 独占禁止法違反に関する社内懲戒ルール等の整備・運用
⑩ 独占禁止法に関する監査の実施
⑪ 内部通報制度の整備・運用
⑫ 独占禁止法に関する社内リニエンシー制度の導入
⑬ 独占禁止法違反の疑いが生じた後の的確な対応
⑭ プログラムの定期的な評価とアップデート
そして、事例集の事例と完全に一致する事例は非常に少ないですし、実際の事業の適法性を判断することは容易ではありません。また、上記のようなコンプライアンス体制の構築に係る施策を実施していくにあたって、どのように自社に導入していくか、どのように社内へ周知し、実際の運用を行っていくかなどは個々の事業者ごとに異なります。
そのため、少しでもお悩みがあれば独占禁止法に係る実務経験のある弁護士にご相談ください。
以上
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