【I&S インサイト】消費者法政策はサステイナブルを目指す

執筆者:福島紘子

 

前回の記事では、サステイナビリティに関して、日本の独占禁止法が本格始動するとしてもそれはこれからだろう、というお話をしました。では消費者法政策は、といえば、こちらは既に取組みが進んでいるところです。そこで、今回も企業の皆さんの疑問にお答えしながら、新たな消費者法政策の動きをご紹介したいと思います。

 

Q:サステイナビリティな商品やサービスに関心がある消費者が増えてるって聞きますけど、やっぱり意識の高い人たちのニッチな市場なんじゃないですか?

A:

それが今やそうでもありません。消費者庁が昨年発表した「「倫理的消費(エシカル消費)」に関する消費者意識調査報告書」を見てみましょう。エシカル消費とは、人・社会・地域・環境に配慮した商品・サービスを購入する行動(消費行動)のことです。前回の記事で取り上げたSDGs中、「つくる責任 つかう責任」の「つかう責任」に直結し、サステイナブルな商品やサービスの購入はその一形態であるといえますが、そのエシカル消費について、消費者の約6割が「興味がある」と回答しています。5年前に比べて15%近くの増加です。例えば、環境負荷を抑えて生産した有機食品の売り上げは、世界で2001年の約210億ドル(約2.3兆円)から2018年には約1050億ドル(約11.6兆円)とおよそ5倍に膨らんでいます。開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入するというフェアトレードは、日本は遅れているといわれながらも、2000年代初頭に比べるとフェアトレード認証製品市場10倍以上の約124億円に拡大しています。

このような時代の流れを背景に、今後5年間の消費者政策の方向性を示す「消費者基本計画」が、昨年改定されました。そこでは、従来からの消費者保護という柱に加え、「先駆者であって改革者でもある」消費者が、企業と協働して「豊かな社会の実現」を目指すための政策を推進するという、新たなヴィジョンが示されました。

 

Q:そういう消費者に効果的にアプローチできればいいんですけど、「エシカル」って輪郭がぼんやりしているので、彼らがこれまでとは違ってどんなところに着目しているのか、企業側はどのようなアプローチをすればいいのか、わかりにくいのですが?

A:

エシカル消費が従来の消費行動と異なる点として、エシカル消費発祥の地であるイギリスのブリタニカ誌(オンライン)では、①「商品やサービスの出どころである、製造・流通過程に着目すること」と、②「消費行動それ自体が、選挙投票にも似た政治的選択と位置付けられていること」の二点を挙げています。このような定義から、提供されたものをただ買うのではなく、自らの理念と共鳴するものを積極的に選択していくという消費行動が浮かび上がります。

日本のエシカル消費者は、もう少しマイルドではありますが、受け身ではなく能動的であるという点に変わりはないようです。彼らが重視する基準は、「今だけ」・「ここだけ」・「自分だけ」から、「未来(エコ・リサイクル商品など)」・「地域・世界(フェアトレード商品や地産地消)」・「みんなに優しい社会(ダイバーシティや生物多様性に配慮した商品・サービス)」へと広がっていることが特徴といえます。

消費者庁では、企業がどのような取組を行えばエシカル消費者にアプローチできるのかという疑問に応えるべく、エシカル消費の推進という観点から評価される取組を行った企業を毎年発表しています。昨年度は8つの基準から評価が行われました。①社会価値の創出、②消費者の行動変容、③事業の将来的な継続性、④経営陣の明確なコミットメントと社員の体制づくり、⑤対象となる消費者の的確な把握、⑥独自性・革新性、⑦外部(地域社会や行政等)との連携、⑧消費者との双方向コミュニケーション、です。

 

Q:②の「消費者の行動変容」って具体的にどういうことですか?企業の取組と「消費者の行動変容」がどう結びつくのかがわかりません。

A:

消費者庁の説明によれば、サステイナブルな商品・サービスの提供により、消費者の認識・行動がサステイナブルな方向に変化する、ということです。「消費者の行動変容」の指標は、消費者志向経営の推進に関する有識者検討会では、既に挙げた8つの中で特に重視されていたわけではありません。しかし、既にお話ししましたとおり、エシカル消費の要が消費者のサステイナビリティに向けた能動的行動である以上、「消費者の行動変容」という観点はやはり要となるべきものと思われます。

さらに言えば、「消費者の行動変容」は、企業に求められるのみならず、先に述べた「消費者基本計画」下の消費者法制自体が目指している方向でもあるようにみえます。そのことが最も如実に表れていると思われるのが、2019年に「食品ロスの削減の推進に関する法律」(令和元年法律第19号。以下「食品ロス削減推進法」)が施行された、食品ロスへの取組です。

 

Q:食品ロスですか。常識的によくなさそうだからエシカル、という図式はわかりやすいんですが、企業の在庫であったり消費者が買ったりした食料品が廃棄される、という問題ですよね。企業が商品を提供し、消費者に選んでもらう段階の話ではない気がしますが?

A:

確かに、食品ロスとは、食料品がまだ食べられるにもかかわらず処分されることに起因する問題です。ただ、フードバンク支援など、消費者が購入した後における対策に加え、消費者法制が現在注目しているのは、企業から商品やサービスが提供される段階でもあります。

例えば、賞味期限の表示。食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)3条1項によれば、賞味期限は消費期限と異なり、それを過ぎると必ずしもすぐ食べられなくなるわけではありません。しかしながら実態として、表示期間を過ぎた食料品は廃棄されることが多く、一日当たりご飯茶碗一杯分の食料が捨てられているという日本の食品ロスの大きな原因となってきました。そこで、食品ロス削減推進法に基づき定められた基本方針(「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」)の下、様々な施策が進められています。農林水産省は、合理的な賞味期限表示の延長を食品関係事業者や関係団体に要請することで、そもそも「賞味期限切れ」の発生を防ぐことを推進していますし、消費者庁は、賞味期限に「おいしいめやす」というキャッチコピーをつけ、店頭で「おいしいめやす」普及キャンペーンを行っており、これに続く新たな企画も計画しているようです。賞味期限の表示とは直接は関係ありませんが、経済産業省では、食品の鮮度に応じたダイナミックプライシング(需要に合わせて販売価格を変更させること)実施に向けての実証試験も行われました。

こうした政策の共通点は、消費者が食料品を手に取り、購入を検討し、購入を決めるに至る行為、すなわち消費行動に働きかけようとするところにあります。ポイントは、消費者の行動が、食品ロス削減すなわちサステイナビリティにつながるかという点であるように思います。企業が食品ロス削減のために賞味期限の表示を延長させた商品は、賞味期限が「おいしいめやす」であるに過ぎないと知る消費者によって購入されることで、廃棄の可能性が低下することが期待されるのです。

以上の食品ロス削減の取組でわかるとおり、エシカル消費を軸に据えた消費者法制を促進剤として、企業の取組が消費行動をよりサステイナブルな方向に変容させることが可能となるといえるのではないでしょうか。

 

Q:ということは、「エシカル消費」に向けた法制度がうまく機能することで、企業のビジネスにも良い影響があるということですか?

A:

ありうると思います。イギリスのエコノミスト誌は、「21世紀の消費者は資本主義を良い方向に変える」と題した社説で、エシカル消費に向けた社会の変容に企業が適応するためには、「政府の法政策」と「消費者の声に大胆に応えること」という、二方向からのアプローチがありうると論じました。日本のサステイナブルな商品・サービスの市場は、その規模が400億ポンド超(約6兆円超)にものぼるイギリスと比べると、まだまだ未開拓であり、商品・サービスの購入の際にサステイナビリティを意識していないという消費者が過半数を占めます。彼らがエシカル消費をしない理由のトップが、「どの商品がエシカル消費につながるかわからない」というものでした。今後、各企業がエシカル消費を利益につなげていくためには、適切な消費者法政策とともに、企業側の積極的な訴求も鍵になりそうです。

ただし訴求の際には、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)の不当表示(5条1号)に該当しないよう、合理的な裏付けが必要であることには注意を払っていただきたいと思います。特に環境分野では、少し古いものではありますが、「環境表示ガイドライン」が「地球にやさしい」などのあいまいな表現や主張が特定されない表示は行わないことを明示的に求めているのみならず、そもそも景品表示法の「表示」には該当しない、商品・サービスの取引に直接関係のない表示も規制の対象としています。一例として、「地球にやさしい商品を扱っています」と自社の取組をアピールする場合、「地球にやさしい」について具体的な根拠があることが必要と考えられます。

とはいえ、現行の消費者基本計画の下、エシカル消費者の育成が消費者法政策の柱となっている以上、不当表示規制はやみくもに発動されることはなく、あくまで補完的な役割、すなわちエシカル消費の健全化という観点から執行されていくのではないかと予想されます。エシカル消費先進国のイギリスで消費者法政策を担う競争・市場庁(CMA)は、エコ偽装(「グリーンウォッシュ」)を防ぎながら環境にやさしい経済をサポートするために、今年夏に企業のためのガイダンスを発表するようです。日本でも、エシカル消費を「不当」表示から守り、よりサステイナブルなものとするため、企業のサステイナブルな取組を支援するような消費者法政策が構築されることが望まれます。

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