【I&S インサイト】2026年電気事業法の改正動向について
DATE 2026.03.13
執筆者:竹内 和生
2026年電気事業法の改正動向について
はじめに
2013年の電力システム改革に向けた閣議決定以降、電気事業をめぐる法規制は流動的に変化しています。各種報道[1]によるとおり、経済産業省において電気事業法の改正が検討されており、2026年内の国会において法案提出されることが報じられていました。2026年2月8日の衆議院選挙及び同18日の第二次高市内閣発足を経て、3月6日の自民党内の経済産業部会・総合エネルギー戦略調査会では改正要綱も示されたと報じられており[2]、本年度の法案提出に向け具体的に検討が進められていることがうかがえます。
本稿では、現時点で確認できる電気事業法改正に関する報道ベースの内容を基に、以下の7つにポイントを整理しました。
①中長期供給力確保義務・中長期取引市場の新設
②小売電気事業者登録の取消事由に休眠状態であることを追加
③電源休廃止における事前の協議義務の新設
④電力需給調整力取引所の指定法人化
⑤広域機関による融資業務の拡大
⑥太陽光発電設備の技術基準適合性への第三者認定
⑦製造事業者・工事業者による保安上の協力義務の新設
その上で、上記7つのポイントについて、小売電気事業に関する内容・発送電事業に関する内容・電力保安に関する内容の3つに分類し、それぞれについて経済産業省の各種審議会(資源エネルギー庁 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会、電力・ガス取引監視等委員会、産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会等)における直近の議論情報をまとめています。その上で、これら改正点を踏まえ、電気事業者をはじめとする電力業界にかかわる事業者が今後どのようなポイントに注目すべきか、その影響について検討・分析しています。
なお、本稿は公表情報に基づき作成されたものであり、意見に関する部分は筆者個人の見解であって過去及び現在の所属の見解とは一切関連しません。
小売電気事業に関する改正検討状況[3]
1 現状の課題認識
2022年以降のウクライナ情勢悪化に伴う燃料価格の上昇により、短期的な卸電力市場の価格が高騰、多くの小売電気事業者が撤退や新規受付の停止が相次ぎました。撤退によって契約を継続できなかった多くの需要家が新規の契約先を確保することができず、価格の高い最終補償契約や経過措置料金への移行を強いられました。
市場環境の混乱の反面、休眠中の小売電気事業者を買収してそのライセンスを悪用した事例も生じました。例えば、小売電気事業者しか利用できない電力広域的運営推進機関(以下「広域機関」といいます。)の「スイッチング支援システム」を悪用し、需要家から電気料金を不正取得していたという事件があったことも報道されています[4]。
以上のような小売電気事業の実態に鑑み、各事業者の事業運営の健全性を確保するための措置が検討されています。
2 ①中長期供給力確保義務・中長期取引市場の新設
⑴ 現行法の建付け
電気事業法2条の12では、小売電気事業者は正当な理由がある場合を除き需要家のための供給力を確保しなければならないとされており、供給力確保ができていないため需要家の利益を阻害するおそれがある場合には業務改善命令の対象となるとしています。ただしその具体的な内容について、「電気事業法に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等」[5](以下「審査基準」といいます。)第2(2)では、当該業務改善勧告の基準として、「例えば、広域的運営推進機関による供給能力を確保するための費用の請求に応じない場合」のみが記載されています。あくまでも例示としての記載とはなっているものの、現行の小売電気事業者における供給力確保義務の具体的内容としては、容量市場における容量拠出金を支払うのが基本であると考えられ、事業撤退等による不利益からの需要家の保護の観点から十分であるかが問われています。
このような状況を背景に、小売電気事業者の供給力確保の在り方について、広域機関(容量市場)を通じた供給能力(kW)の確保のみならず、一定の電力量(kWh)についても確保を促すべく、以下のように、中長期的な供給力確保義務を明確化することが検討されています。
⑵ 中長期供給力確保義務の詳細内容
原則として小売電気事業者は、3年度前には想定需要の5割、1年度前には想定需要の7割の供給力確保を行うべきとすることが検討されています。他方で、過去3年程度の販売電力量が5億kWh未満の「比較的規模が小さい事業者」においては、一定の緩和を行うことも検討されています。

図1 中長期供給力確保義務の数値基準(脚注3資料より抜粋)
現在の公表情報によれば、確保する供給力に相当する負荷の形式については、ベース・ミドル・ピークの種別を問わず、また、FIT・FIPの電源についても計上が可能との方向で検討されているようです。この考え方によれば、例えば、想定需要のベース分のみで5割を超えるような場合には、3年度前には、当該ベース分に充てるためのベースロード電源を確保すれば中長期供給力確保義務は達成とみなされることになります。
加えて、複数の小売電気事業者がバランシンググループ(BG)を構成し、BGの代表事業者がBG全体も供給力確保を行っているという実態も考慮し、複数事業者による共同調達により上記数値基準を達成することも可能との方向で検討されています。

図2 共同調達による供給力確保のイメージ(脚注6資料より抜粋)
⑶ 中長期取引所の開設
このような中長期的なkWhの確保は、大規模発電施設を持たない新電力小売電気事業者の場合、相対取引のほかは、ベースロード市場や先渡市場によって確保することが想定されます。しかし、ベースロード市場は対象がベースロード電源に限られる一方、先渡市場の取引量はスポット市場に比べて極めて少なく新電力にとって有効な供給力調達手段とはなっていないのが現状です。一部の新電力小売にとって、中長期的供給力の確保のためにはこのような取引手段では十分とは言えない場合もあり、供給力確保が可能となる取引の場が求められます。
そこで、大規模発電施設を持たない新電力小売電気事業者においても中長期的供給力を確保することができるよう、新たに中長期取引市場を開設することが検討されています。

図3 現行の各種電力市場における中長期市場の位置付け(脚注3資料より抜粋)
中長期市場では、総出力500万kW以上を保有する発電事業者に対し一定の供給力を市場に供出することを義務付けることも検討されています。この点は、中長期取引市場がベースロード市場の発展的解消との位置付けに基づき、ベースロード市場の規律を参考としているものと考えられます。
ただし、中長期取引市場の約定方法はザラバ方式とする方向性が示されており、シングルプライスオークションであるスポット市場のように、単一価格が形成されるものでないことが想定されます。このため、売り手においては売買価格の実勢を見ながら、プライスベースでの供出が許容されることが検討されています。この点は、供出義務を負う発電事業者に対してコストベースで供出が求めるベースロード市場の規律よりも、若干緩和されることになるものと考えられます。
⑷ 供給力確保義務未達成の場合のサンクション
小売電気事業者により履行確保ができなかった場合のサンクションとしては、現状以下の2案が議論されています[6]。
Ⓐ案:容量拠出金の追加徴収
需給ひっ迫の際にはスポット市場価格が上昇ことに鑑みれば、価格安定化により利益を得られるのはスポット市場に多く依存している事業者(=確保できなかった事業者)であるから、安定化のためのコストを負担すべきという考え方に基づき、容量拠出金の追加徴収を求めることが提案されています。
徴収額の考え方としては、
Ⓐ-1追加調達に要した価格を未達量で按分する
Ⓐ-2中長期市場価格とスポット市場価格との差額
との2つの考え方が示されています。ただし、Ⓐ-2の考え方はペナルティ的要素に近く、市場安定化コストの公平な負担という観点からは、Ⓐ-1の考え方に親和性があるようにも思われます。
Ⓑ案:指導・勧告
もう一つは、供給力確保義務の履行ができていない事業者を指導・勧告の対象とすることも提案されています。
この指導・勧告は誰が行うのか、ということが問題となりますが、供給力確保に関する勧告を実施することができると考えられる一般的な規定があるのは、電力・ガス取引監視等委員会(以下「電取委」といいます。)(66条の12)、または、電力広域的運営推進機関(以下「広域機関」といいます。)(28条の40第1項6号)です。このほか、経済産業大臣が勧告する場合の根拠としては、供給計画の変更に関する勧告(29条5項)として行う、または、上記供給力確保義務に伴う命令(2条の12第2項)よりも緩やかな行政指導として当然に予定されているとの考え方もあるように思われます。大臣による供給計画変更勧告は、電取委への事前諮問事項となっている(66条の11第1項13号)ため、当該規定を勧告の根拠とする場合、電取委により実質審査がされることも考えられます。
行政指導を実施する場合には、法律上の明文の根拠が必要ではありませんが、このような既定に照らせば、改善勧告を行う場合の根拠の整理が必要となるものと思われます。大臣・電取委・広域機関等の各機関がそれぞれどのような役割を担うべきかについて、今後さらなる検討が進められるものと考えられます。
これらⒶ案・Ⓑ案のどちらを採用するかについて方向性は定まっていませんが、資源エネルギー庁としては両案の組合せにも言及しています。双方のメリット・デメリットはそれぞれあり、基本は追加徴収をすることとしながらも、確保ができない事業者には勧告・命令を行うという、両方の可能性も十分考えられます。
⑸ 改正の方式
今般議論されている中長期供給力確保義務について、資源エネルギー庁としては、現行電気事業法2条の12の供給力確保義務の一部として位置付けているものを考えられ、現に改正要綱にも明記はされていません。このため、今般新たに議論されている中長期供給力確保義務の設定自体は、電気事業法を改正することで直接盛り込むのではなく、基本的には、供給力確保義務の具体的な内容として明記するため、審査基準及び広域機関の業務規程・送配電等業務指針の改定を行うにとどまるのではないかとも考えられます。
他方で、中長期取引市場の開設については、改正要綱において後記の需給調整力取引所の法定化と共に言及があり、現行の卸電力取引所に関する規定をベースに追加されることが予想されます。どのような組織が市場開設を担うかにもよりますが、現行法の仕組みでは対応し切るのはやや難しいように思われますので、電気事業法の改正により法律上に明文化されるものと思われます。
したがって、中長期供給力確保義務自体は電気事業法上に具体的に明文化されることは予想されませんが、中長期取引市場が明記されることにより、当該義務を前提とした法律上の建付けとなることが想定できます。いずれにせよ、中長期供給力確保義務の新設は、小売電気事業者とはじめとする電気事業者の事業運営に一定の影響を及ぼすと考えられますので、継続的に政策議論動向を注目することが重要です。
⑹ 実務上の留意点
中長期供給力確保義務においては、既に多くの電気事業者が関心を寄せているものと考えられます。
当該義務の法制化は、小売電気事業者のスポット市場への依存度を低め、発電事業者と長期的な相対契約の締結へと誘導するものと考えられます。小売電気事業者が既にそのようなビジネスモデルを構築している場合は問題ないですが、例えば、市場連動型メニューをメインとしている事業者などにとっては、再検討が必要となることも考えられます。あえて追加の容量拠出金を支払うことを前提に、今後もスポット調達をメインとするビジネスモデルの出現も想定されなくもないですが、指導・勧告による公表のリスクもある上、追加負担の可能性のある容量拠出金の額の予測は現時点で困難であるため、基本的には求められた供給力の調達を行う必要があるものと考えます。
また、義務達成のために他の事業者との共同調達を行う場合、独占禁止法の不当な取引制限に該当しないかの懸念(いわゆる購買カルテルの問題)は気になるところです。共同購入における不当な取引制限の問題は、購入市場における市場支配力行使の観点、及び、販売市場における事業者間の協調的行動の助長の観点から検討されます。供給力不足の懸念のある卸電力市場において購入(小売)側が支配力を行使するという場面はあまり想定できませんが、他方で、卸電力市場での共同調達の準備・遂行によって得た情報により、小売部門における電力販売価格設定に関して他の共同購入事業者と協調的な行動が生じる場合には問題とされやすくなり、情報遮断措置の導入も考慮対象となり得ます[7]。
このように、電気事業法・独占禁止法それぞれの観点から、整合の取れた整理を行うことが重要となります。
3 ②小売電気事業者登録の取消事由に休眠状態であることを追加
⑴ 現行法の建付け
現行法においては、小売電気事業者の登録の取り消し事由として、不正の手段により登録を受けた場合や事業者(またはその代表者)が法令違反に至った場合等である必要があり、単に小売電気事業者としての事業の実体がないことをもって登録を取消すことは困難となっています(2条の9第1項、2条の4第1項1号・3号)。
実際に過去には、需要家を有していない小売電気事業者について登録を取消された例も存在します。ただしその理由として挙げられている内容を見る限り、電力取引報の未提出という法令違反を理由としており、休眠が直接の理由とはされていないことがうかがえます[8]。
⑵ 改正内容
事業実態のない小売電気事業者により需要家の利益が害されることを避けるため、正当な理由なく1年以上休眠状態にある事業者については、小売電気事業者のライセンス登録の取消しを可能とすることが検討されています。

図4 休眠事業者の登録取消し(脚注3資料より抜粋)
休眠状態にあることをもって直ちに取消事由となるのではなく、「正当な理由」がない場合に登録取消がなされることになります。このことからすれば、①正当な理由があるかどうか、②正当な理由がないとして取消すことが相当か、という2つの点について、経済産業大臣に判断の裁量が付与されるものと理解します。
①「正当な理由」該当性(要件裁量)については、その具体例として、「登録を受けたときに予想しえなかった経済的、社会的条件の変化等、やむを得ないと認められる事情」とされています。おそらく、地政学リスクの現実化や災害等による急激な供給力不足等を想定されているものと思われますが、後述のとおり現状でも供給力の確保が課題とされていることに鑑みれば、それなりのハードルがあるようにも考えられます。また、「正当な理由」がそのまま法文上に落とし込まれるとすれば、正当な理由があることは小売電気事業者側が説明することが求められるものと考えられます。この点で、1年以上需要家が存在しない状態であれば、原則的に取消要件には該当し得るものと考え、説明事由を準備することが求められるものと考えます。
②登録取消の相当については、現行の2条9項1号は「取り消すことができる」とされており、同項各号の取消事由があっても実際に取り消すかどうかは大臣の裁量にゆだねられているものと考えられることにあります(効果裁量)。取り消すべき状況・取り消すべきではない具体例については、審査基準などによる明確化が望ましいですが、上記のような背景事情を考慮すると、休眠ライセンスを保有する事業が譲渡された場合などは要注意と考えられ、上記の「正当な事由」があることの説明を尽くすことが重要となります。
⑶ 実務上の影響
現状、需要家との需給契約を1件でも確保されている場合には特に問題とはならないものと考えます。他方で、既に小売電気事業は撤退したものの、ライセンス登録は残したまま、という場合には、注意が必要です。事業を再開する見込みがあるならば、上記の正当性を説明することができなければ取消の対象となり打得ることを考えれば、今から説明材料を準備することは重要となります。再開の具体的見込みはないが登録を残しているという場合、国から取消されたことを公表されることによりレピュテーションの低下も考えられることからすれば、先んじて小売電気事業の廃止届(2条の8第1項)を行うことも考えられます。
発送電事業に関する改正検討状況[9]
1 現状の課題認識
2024年1月24日、広域機関により発表された「全国及び供給区域ごとの需要想定」においては、従来、人口減少や節電・省エネ等により減少すると見込まれていた電力需要ついて、データセンター・半導体工場等の新設によりV字で上昇する予測が発表されています。このような傾向は、2026年1月21日に発表された2026年度版「全国及び供給区域ごとの需要想定」[10]においても維持されており、足元の電力需要の動き及び今後10年の需要が発表されており、2035年度の需要想定として8,461億kWhが見込まれています。

図5 需要電力量の推移(2024年度想定)[11]
旺盛な需要に対応するため、対応する供給力の確保が喫緊の課題となっています。もっとも、現在稼働している大規模供給力には高度経済成長期に建設されたものも多く、適切な維持と時代のニーズに合った改善を続けなければ、将来にわたって安定的な供給がかないません。
特に、容量市場においては非効率石炭火力の退出措置が図られている上、長期脱炭素オークションでは既存LNG火力の高効率化リプレースが促されており、これら火力電源の休廃止による断続的な供給力不足も懸念されています。また、需要増加に対応するため送配電系統の増強も必要となる上、既存の系統設備の計画的な更新を進めていくための費用確保も極めて重要となります。
一方で、足許の需給バランスの確保についても多くの課題を抱えています。現在、需給調整市場によってΔkW・kWhの調整力が調達されていますが、募集量に対して応札量が不足し、取引価格の高騰も課題となっています。これらのコストは託送料金に反映され需要家の電気料金への負担となることから、資源エネルギー庁においては、募集量の削減やΔkWの上限価格の見直しが検討されています。もっとも、近時は系統用蓄電池の市場参入が活発であり、調整力としても有望であることから、蓄電池への投資を阻害するような制度とならないようにする要請もあります。需給調整市場の運営においては、これら種々の課題に鑑みたバランスの取れた政策立案が求められています。
2 ③電源休廃止における事前の協議義務の新設
⑴ 現行法の建付け
現行法規において発電事業者は、発電事業開始において届け出た発電事業の用に供する電気工作物の出力を10万kW低下させる場合には、9カ月前に「発電事業変更届出書」を経済産業大臣に提出することになっています(27条の27第3項、施行規則45条の19第4項1号)。加えて、発電事業者は毎年、供給計画を作成した上、広域機関を経由して大臣に提出する義務があり(29条1項)、その内容には今後10年間の発電設備の使用開始・能力変更に関する事項も含まれます(施行規則46条1項)。
ただし、これらの報告・届出については少なくとも内部で決定された確度の高い情報を提出することで足り、発電事業者により休廃止を検討している段階においては特段情報の共有は求められていません。
⑵ 改正内容
上記のような背景の下、今後は発電事業者による大規模火力電源の休廃止が多くなることを見越して、事業者の検討段階において、国・広域機関・地域の一般送配電事業者が今後10年間の休廃止検討状況の動向を把握することができるような法制度が検討されています。この情報を国・広域機関・エリアの一般送配電事業者が得ることで、中長期的な需給見通しに沿った形で、電源投資・系統設備などの必要な対応を計画的に進めることができるよう、供給計画等の仕組みを参考に、実効的な仕組みを検討することとされています。
なお、一般送配電事業者等から休廃止のタイミングを変更するよう協議が求められた場合、発電事業者は応じる必要があるのかという点はまだ情報がありません。ただ、検討段階において情報提供を求められるという制度が検討されていることからすれば、休止・廃止時期の変更等、発電事業者が何らかの調整に応じることもセットで義務とされる可能性も考えられ、今後の詳細設計が待たれます。
⑶ 実務上の論点
資源エネルギー庁においても言及がされているところですが、発電事業者による休廃止検討情報の保秘をどう確保するかの検討は必要となります。事業者の供給力に関する検討状況の情報は競争に影響を及ぼす情報であり、特定の事業者が把握することによって市場の公正性を歪めるおそれがあります。
この点、「適正な電力取引に関する指針」[12]第二部Ⅱ2⑶イ①及び②において、一定規模以上の発電設備の停止を決定した事実はインサイダー情報に該当するとされており、速やかに公表することが求められています。本改正で情報提供の対象となる休廃止検討情報が当該インサイダー情報に該当するかについて考えれば、共有する情報は確度の高くない休廃止計画情報であるため「決定した」事実とは言い難く、直ちにインサイダー情報に該当するとは言えないものと考えます。
ただし、長期相対取引価格や今後開設される中長期市場との関係では、取引価格に影響を及ぼす可能性も否定できません。大規模電源の稼働状況については広域機関から公的情報として公平に提供することが望まれるため、供給計画の扱いと同様、統計的な需給情報に含ませる等、特定の電源に関する情報と推知されることを避けつつも市場情報として適切に反映するような措置を講ずることは考えられます。
3 ④電力需給調整力取引所の指定法人化
⑴ 現行法の建付け
現状、わが国の需給調整市場を開設・運営しているのは、送配電網協議会から2024年に分離独立した一般社団法人電力需給調整力取引所(EPRX)となっています。もっともEPRXは、一般社団法人日本卸電力取引所(JEPX)における卸電力取引所の指定のように電気事業法上の指定法人としての位置付けがされているわけではなく、現状は私設の任意団体という位置付けとなっています。需給調整市場がわが国の電力供給において重要であることに鑑み、どのようにガバナンスを図るかは重要な論点となっています。
ここで、現状の卸電力取引所に関する指定法人制度を見てみると、指定を受けた卸電力取引所は、業務規程の作成(99条1項)や、毎年の事業計画・予算の作成(99条の7第1項)が義務付けられ、経済産業大臣の認可を受けなければならないとされています。また、市場参加者による不正行為や不当な価格形成が行われている場合には売買取引の制限等の措置を行う権限が付与されている一方で(99条の3第2項)、公正かつ的確な市場開設業務がされていない場合には大臣による監督命令も規定されています(99条の13)。
需給調整市場に関してはこのような既定がなく、国と取引所との事実上の連携により政策目的を達成しているという状況になっています。
⑵ 改正内容
資源エネルギー庁では、JEPXと同様に、EPRXについても運営報告やガバナンスの適切性確保を担保するため、電気事業法上に指定法人としての位置付けを明記することが検討されています。
EPRXの指定法人化においても、上記のような卸電力取引所の規定を参考に検討されるものと考えられます。このため、需給調整力取引所においても、取引に関する自主規制権限が付与される一方で、適時に所管官庁に報告し、大臣の認可を受けることが義務付けられるものと考えます。
⑶ 実務への影響
EPRXは現在のところ、社員である一般送配電事業者9社によって構成されています[13]。このため、取引の規律は需給調整力の買い手である系統運用者にとって合理的な運営がされるものと予測されます。
このような観点も踏まえ、新たに需給調整市場に算入する電気事業者においては、その事業性をよく吟味する必要があります。特に蓄電池等の新規ビジネスに対しては、一定の利潤を確保させつつも、公平性の観点から過大な利益確保を防止するための措置が講じられる可能性は考えられます。
今後も系統用蓄電池ビジネスは拡大するものと予測されますが、その事業性評価においては、資源エネルギー庁や電力・ガス取引監視等委員会において規制される市場規律を正しく理解するのと同時に、指定法人化されたEPRXによる市場監視の動向についても目を配ることは重要と考えます。これは単に蓄電池等の設置者や運用者のみならず、設置者に対して蓄電池を販売する事業者や電力をアグリゲートするVPP事業者において、収益性について顧客に説明する際においても重要です。適切な入札規律に沿った事業性評価を取引先に提示しなければ、独占禁止法のぎまん的顧客誘引(同法2条9項・一般指定8項)や、不正競争防止法の誤認惹起行為(同法2条1項20号)の問題も生じ得ます。
3 ⑤広域機関による融資業務の拡大
⑴ 現行法の建付け
広域系統(地域間連系線)の増強・整備は、特定の供給エリアの利益のみならず、広く全国大での電気料金の低減に資するものとなり、電気の利用者である国民全体に裨益するものと考えられています。このため、広域系統の整備については、広域機関により、JEPXの間接オークションにより発生する値差収益を原資とした交付・貸付を行うことが法定されています(28条の40第1項5号の2・5号の3)。
他方で供給力確保という点では、発電事業者に対しては、資金の融資等を行うスキームは確保されていませんでした。また、一般送配電事業者に対しても、エリア内の地内系統整備については当該一般送配電事業者により資金確保を行うことが基本であり、融資の対象とされていませんでした。
⑵ 改正内容
資源エネルギー庁では、広域機関による広域系統の整備に対する貸付の範囲を拡大し、政府の信用力を活用した融資制度を検討しています。
まず、電源(発電事業)については、長期・大規模な投資が必要である等の理由により現状の制度では必要な投資の確保が難しいような電源を中心に、広域機関が発電事業者に対して融資を行うスキームが検討されています。
また、系統(送配電事業)についても、現状の値差収益を原資とした広域系統への融資に加え、財政融資を活用した融資を可能とするとともに、地域間連系線のみならずエリア内の地内系統の整備にも用いることができるようなスキームへと再構成されることが検討されています。

図6 広域機関による新たな融資制度(脚注3資料より抜粋)
⑶ 実務への影響
本改正点のうち特に電源融資については、融資の確保が困難な大規模電源への財政融資という形式上、原子力発電の融資施策という見方もあります[14]。国民の理解を得るため、慎重な議論が行われることも予想され、場合によっては幾分か改正案の内容が修正される可能性も否定できません。
このため本改正点は、今後の電気事業法改正においては中心的な論点となる可能性もあります。改正案が提出された後、改正に至った場合には、最終的な制度形態を改めて見定める必要があります。
電力保安に関するもの[15]
1 現状の課題認識
固定価格買取制度(FIT)をはじめとする再生可能エネルギーの導入促進策の強化により、太陽電池や風力等の分散型発電設備量は急速に増加しています。
他方で、分散型電源設備の電気事故も増加しており、具体的には、PCS内部のコンデンサ故障により筐体が破損し下草等に引火して火災事故が発生した太陽電池発電設備の事例や、台風によりモジュールが飛散して家屋を破損させた風力発電設備の事例等が挙げられています。
特に、太陽電池発電設備の事故については、パワーコンディショナ(PCS)の破損事故は6割を超える一方で、大多数が原因不明となっているものが多い現状となっています。また、立入検査を行った太陽電池発電設備のうち、支持物に関する構造計算書の許容応力度設計に関する指摘が頻発しているほか、そもそも構造計算書等の存在が確認できていない事業場も見受けられ、土木面の知見を踏まえた一層の構造安全上の確保が課題となっています。

図7 太陽光発電設備の破損の現状(脚注15資料より抜粋)
このような現状を踏まえ、分散型発電設備における保安レベルの向上が求められています。
2 ⑥太陽光発電設備の技術基準適合性への第三者認定
現行法上、出力2,000kW以上の太陽電池発電設備を設置する場合、国への事前届出を行なう必要があり(48条1項、施行規則63条・別表第2)、設置工事の後、使用前自主検査を実施し、国による使用前安全管理審査を受検する必要があります(51条、施行規則73条の2の2)。一方で、出力2,000kW未満10kW以上の太陽電池発電設備の設置には事前届出は必要ありませんが、令和4年改正により使用前自己確認の結果を国に報告することとなっています(51条の2第1項・3項)。
そこで、事故を防止し安全性を向上させる観点から、工事前の段階において、設置者が設備の構造安全上の適切性について土木建築の専門知見を有する第三者機関の確認を得るような制度の導入が検討されています。

図8 改正後の太陽電池発電設備設置工事の手続イメージ(脚注15資料より抜粋)
また、第三者機関の確認のために時間を要し事業開始時期の遅れが生じる可能性から、適切な構造安全性を有する設備に関する民間認証制度や規格を活用した標準化などの環境整備も併せて図ることも検討されています。
太陽電池発電設備の新設はFIT制度開始直後に比べればやや落ち着きを見せていますが、今後は卒FITの太陽電池発電設備がリパワリングを行う場合にも同様の第三者機関の確認が必要となる可能性があります。今後新設される事業者のみならず、既存の太陽電池発電設備の設置者においても、技術基準への適合性をよりシビアにみられることに留意する必要があります。
3 ⑦製造事業者・工事業者による保安上の協力義務の新設
現状、太陽電池発電設備等の電気工作物設置者に対しては、経済産業大臣は、報告徴収(106条1項)や立入検査(107条1項)による調査を行い、技術基準適合命令(40条)を発する権限を有しています。他方で、設置者が保有する設備のメーカーや、設置工事を実施した工事業者等に対してはかかる権限は及ばず、設備事故等の場合においてもこれらの事業者が調査に協力するインセンティブに乏しいのが現状です。
このため、経済産業大臣が設置者に対して技術基準適合命令を行った場合に、それを受けて設置者がとる措置の実施に、製造事業者・輸入販売事業者や工事業者といった関係する事業者が協力せず、当該措置の実施に支障がある場合には、経済産業大臣による勧告や正当な理由なく当該勧告に従わない場合の公表を可能とすることが検討されています。また、関係する事業者に対する報告徴収や立入検査、製品評価技術基盤機構(NITE)による製造事業者等への立入検査を可能とすることや、製造事業者等への立入検査の際には、現地で検査が困難な電気工作物について所有者・占有者に対して提出を命じることを可能とすることも検討されることとなっています。

図9 製造事業者等・工事業者への調査協力義務(脚注15資料より抜粋)
当該協力義務により、製造業者や工事業者も電気事業法における行政措置上の義務を一定負うことになります。これらの事業者においては、製造や工事にかかる図書について保存管理の基準を設定して適切に管理することが一層重要となるものと考えます。
さいごに
上記は、本項執筆時点で公表されている情報に基づいているものであるため、どこまでの範囲で実際に電気事業法改正案に落とし込まれるのかは現時点で未確定です。最終的に改正法として施行されるかは言うまでもなく国会審議によるため、2026年中に成立しない可能性もあります。
もっとも、これらの内容について形式はどうであれ、既に各種の有識者会合において具体的に議論されてきた内容であり、早晩何らかの形で政策に反映されるものと考えられます。特に、需要増加に伴う供給力不足は「待ったなし」であり、政策目的の実現が急がれます。
電力システム改革も長い目で見ればまだ発展途上であり、今後も継続的な検証と制度見直しが続くものと予想されます。複雑化を増す電力業界において、発電事業者・小売電気事業者のみならず、上記で挙げた蓄電池設置者や設備製造業者・工事業者も含め、健全な事業を継続するためには、事業制度に関する最新の動向に追いつき、それに沿った事業遂行が必要不可欠です。このようなビジネスは容易ではありませんが、不安に感じる点は知見のある専門家と協働するなど、その時々にあったサポートを得ることは重要となります。
以上
[1] 2026年1月7日付日本経済新聞「「休眠」新電力は登録抹消、法人格の悪用防ぐ 経産省が年内法改正へ」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA252FQ0V21C25A2000000/
2026年1月19日付電気新聞「電源休廃止、送配電事業者と事前協議/電事法改正案、大枠固まる」https://www.denkishimbun.com/archives/401573 等
[2] 2026年3月9日付電気新聞「小売電気事業者、1年休眠で登録取り消し/電事法改正案に明記」https://www.denkishimbun.com/archives/403478
[3] 本項目における事実記載部分は、主に、第4回次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会資料4-1(2025年12月17日)の内容を参照しています。
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/pdf/004_04_01.pdf
[4] 2023年5月4日付日本経済新聞「新電力「乗り換え」悪用で13億円不正取得 警視庁が摘発」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE189RP0Y3A110C2000000/
[5] https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/pdf/shinsakijun_20250530.pdf
[6] 第9回電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ 資料3https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/system_design_wg/pdf/009_03_00.pdf
[7] CPRC「業務提携に関する検討会 報告書」 別紙5-3
https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/190710gyoumuteikei1.pdf
https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/190710gyoumuteikei2.pdf
[8] https://www.egc.meti.go.jp/info/public/pdf/20230825006b.pdf
[9] 本項目における事実記載部分は、主に脚注3資料の内容を参照しています。
[10] https://www.occto.or.jp/assets/news/juyousoutei/260121_juyousoutei_r1.pdf
[11] 2024年7月23日 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 資料1より抜粋 https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/059/059_004.pdf
[12] https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/tekitorigl.pdf
[13] 一般社団法人電力需給調整力取引所HP https://www.eprx.or.jp/about/about.html
[14] 例えば、2026年2月17日付毎日新聞「環境エネルギー最前線 高市政権なぜいま「原発に公的融資」急ぐのか」https://mainichi.jp/premier/business/articles/20260215/biz/00m/020/005000c
[15] 本項目の事実記載部分は、主に、2025年12月15日 産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会 「太陽電池発電設備等の発電設備を巡る保安上の課題と対応の方向性に係る取りまとめ(案)」の内容を参照しています。
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/pdf/033_02_00.pdf
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