【I&S インサイト】弁護士から見た補助金等適正化法 ―近時の紛争化事例から見える教訓―

執筆者:竹蓋 春香

 

弁護士から見た補助金等適正化法

―近時の紛争化事例から見える教訓―
 

 

はじめに

 国や地方自治体から支給される「補助金」、「助成金」、「交付金」といった名目で金銭給付は非常に多岐にわたります。これらの金銭給付の中には、企業の活動を支援するものも多くあり、活用している方も多いのではないでしょうか。活用できれば企業にとって有用であることに間違いはありませんが、制度改正が多く、申請手続も複雑であり、実際に交付されるまでには乗り越えるべきハードルや気を付けるべき注意点もあります。

 このような事情から、補助金を受けたい場合には専門家にご依頼することが多いかと思います。つまり、事業計画を提出する必要がある補助金は公認会計士・税理士・中小企業診断士の先生や民間コンサル会社に、雇用関係に関する補助金は社会保険労務士・行政書士の先生にといった具合です。実際に、補助金申請の支援をしている認定経営革新等支援機関(認定支援機関)の登録をしているのは、これらの士業や民間コンサル会社がほとんどです。

 そのため、補助金で弁護士が出てくる場面を想像しにくいかと思いますが、近時、補助金をめぐる法的紛争[1]が散見されるようになっています。

 そこで、今回は、国から支給される補助金について、弁護士の視点から、実際にトラブルとなった事例を交えて分析しようと思います。

 

補助金とは?

 「補助金」の言葉の意味は法律で定められていません。一般的に法律用語上の意味合いとしては、「国、地方公共団体等が特定の事務又は事業(産業の助成・社会福祉・公共事業等)を実施する者に対して、当該事務又は事業を助長するために恩恵的に交付する給付金をいう。(中略)奨励金、助成金、負担金、交付金、給付金、補給金等の名称で呼ばれることもある。」ということのようです[2]

 そして、国が支給する補助金を包括的に規制する法律は、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(以下「補助金等適正化法」といいます。)です。この法律は、あらゆる補助金に共通する基本ルールを定めています。個別の補助金の支給要件など詳細については、各省庁が作成した補助金規程に定めがあります。

 なお、具体的にどのような補助金があるのかを検索するには、中小企業であれば、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営している「J-Net21」が便利です。ただし、こちらも全ての補助金の最新情報を網羅しているわけではありませんので、各省庁のウェブサイトや相談窓口で確認することをお勧めします。

 

補助金に関する手続の流れ

 補助金と一口にいっても、企業の事業規模や事業分野によって細分化され、多岐にわたり、補助金ごとに支給要件、必要書類、手続、実際の交付までに要する期間も異なります。

 今回は、イメージを掴むために、厚生労働省が所管する「中小企業最低賃金引上げ支援対策費補助金」(以下「業務改善助成金」といいます。)をサンプルに、基本の流れを見ていきたいと思います。業務改善助成金は、対象者が中小企業事業者に限定されておりますが、事業分野に特段制限がありませんので、活用されている企業も多いのではないでしょうか。

1 申請

 どのような補助金であったとしても、補助金申請がなければ始まりません。業務改善助成金も同様です。

 業務改善助成金を希望する企業は、所定の期限内に、申請書、国庫補助金所要額調書、事業実施計画書、助成対象経費の見積書、申請前6か月分の賃金台帳の写しなどを地方労働局に提出しなければなりません。

2 交付決定

 補助金申請があると、受領した行政側は交付決定又は不交付決定をすることになります。ここで注意すべきは、交付決定を受けてもすぐに補助金を受給できるわけではないということです。新型コロナウイルス感染症対策系の一部の補助金[3]では、交付決定後すぐに補助金を概算払いするものもありましたが、実はそのような扱いをする補助金は例外です。交付決定後に、行政が事業計画遂行の成果を判断し、具体的に給付する補助金額を決定してから、実際に補助金が給付されるという仕組みとなっています(下記3.3及び3.4参照)。

 業務改善助成金の場合、企業から申請書を受け取った地方労働局は、必要書類が揃っているか、要件を満たしているかを審査し、交付決定又は不交付決定を出すことになります。そして、企業は、業務改善助成金の交付決定を受けたら、事業実施計画に基づいて事業(設備投資等や事業場内最低賃金の引上げ)を実施します。

 もし、事業実施計画に変更が生じた場合には、地方労働局に対して事業計画変更申請を行い、変更承認を得る必要があります。

 

3 状況報告・事業実績報告と支給申請

 申請時に事業計画を提出する補助金の場合、上記3.2でも述べましたとおり、事業計画を遂行したか、成果が出ているかを行政側で判断しますので、交付決定時の金額が自動的に支給されるわけではなく、事業計画が適切に遂行されているかを確認するための報告が義務付けられていることが通常です。

 業務改善助成金の場合も、賃金引上げから所定の期間内に状況報告書を地方労働局長に提出しなければなりませんし、事業実施計画が完了したときは、事業実績報告書及び支給申請書の提出が求められています。実際に事業計画を遂行したのかを確認することになりますので、添付資料として、賃金引上げを証する書面や、導入した設備投資等の内容を証する書類、経費の支出を証する書類等の提出も併せて求められます。

4 交付額確定処分

 企業から事業実績報告が行われると、行政は当該事業の成果が補助金の交付の決定の内容及びこれに付した条件に適合するものであるかどうかを調査し、適合すると認めたときは、交付すべき補助金の額を確定します。ここまで来て初めて実際に補助金を受給できます。

 ここでも注意点があります。交付決定時(上記3.2)に、決定通知書には補助金の金額が記載されているケースがあります。しかし、行政が事業の成果を評価しますので、交付決定時の補助金額が満額給付されるとは限りません。何かしらの不備が認められてしまうと、減額して給付ということもありうるのです。

 業務改善助成金の場合も、地方労働局が事業実績報告書及び支給申請書を受領すると、内容を審査し、業務改善助成金の交付の決定の内容又は計画変更の承認内容及びこれに付した条件に適合すると認めたときは、交付すべき額を確定します。満額支給とは限らず、一部支給となることもありえます。

5 交付決定の取消し・返還命令・刑罰

 国から支給される補助金の財源は国民から徴収した税金ですので、交付決定の内容・条件に違反した場合や法令等に違反した場合には、交付決定の全部又は一部が取り消されます。これは、悪意ある不正受給に限らず、企業が過失によって交付決定の内容等に違反した場合も当てはまります。

 交付額確定処分後に誤り・不正が発覚した場合であっても交付決定の取消しがあり、既に補助金を受給しているときには返還命令が発せられ、自主的な返還がなければ、国税滞納処分と同じ方法で徴収されることになります。

 そして、悪質な不正受給、他の用途への使用、報告懈怠・虚偽報告については、刑罰による制裁があります。

 以上はどのような補助金でも共通する制裁規定ですので、ご注意ください。

実際の事例(法的手続)

 それでは、補助金申請でトラブルになった実際の事例を紹介したいと思います。具体的には、総務省行政不服審査会が判断した令和7年度答申第38号です。この事例では、業務改善助成金の交付額確定処分で満額支給されなかったXが法的手続で争いました。

1 事案の概要

 Xは、PC、タブレット、自動車等を新規導入することにより業務の効率化を図ることを目的として、業務改善助成金の交付申請をし、A労働局長から補助金額450万円の交付決定を受けていました。その後、Xは、事業計画の変更をしていますが、A労働局長から変更承認を受けています。

 しかし、Xが事業実績報告書を提出した結果、A労働局長は交付額を91万6000円とする交付額確定処分(以下「本件交付額確定処分」といいます。)をしました。つまり、358万4000円の減額となってしまったのです。

 A労働局長が本件交付額確定処分を出した理由は、「自動車購入代金については、計画変更承認前に売買契約を交わし、助成対象経費の支出を行ったものであるので、助成対象となりません」ということです。

 Xは、本件交付額確定処分を不服として、厚生労働大臣に対して審査請求[4]を申し立てました。

2 Xの主張

 Xは次の理由で、本件交付額確定処分の取消しを求めました。

① 事業計画の変更申請をしたのは、当初購入予定であった自動車が事業年度内に納車されないことになったため、業務効率の向上の目的達成のために別の中古自動車(以下「本件購入自動車」といいます。)を代替物として購入することとしたためである。

② 昨今の中古車市場を踏まえ、本件購入自動車が第三者に購入されないようにするため、売買契約の締結前に申込証拠金として5万円を交付した。売買代金として支払っていない。その後、計画変更申請を行い、変更承認を受けている。申込証拠金返還請求権と、売買契約に基づく代金支払い請求権と相殺することにより、実質的に売買代金に充当されている。

③ 売買契約の締結日について、A労働局長は注文書代わり作成した売買契約書に基づいて変更承認前と認定しているが、正式な売買契約書によれば変更承認後である。

④ A労働局長は、Xに対して、提出を求めたが、売買契約書及び領収書の提出を求めていない。裏付け資料として何を提出すべきか十分な機会を与えなかった。

⑤ 上記②の理由から計画変更申請前に5万円を支払ったのであるから、これを理由に本件交付額確定処分を行うのは著しく合理性を欠き、業務改善助成金の趣旨に反する。358万4000円の減額はXにとって不利益が甚大であり、利益衡量の観点からも著しく不合理である。

3 厚生労働大臣の中間判断

 厚生労働大臣は、次のとおり中間判断(諮問に係る審査庁の判断)を示し、請求棄却相当の意見を出しています。

① (上記4.2の②及び③について)売買契約書や5万円の領収書等の日付は変更申請前の日付が記載されている。X自身も事業実績報告書提出後にA労働局長から指摘されるまで、契約日の修正を行っていなかった。

② (上記4.2の④について)A労働局長は、Xに対して審査に必要な書類及びその提出理由について再三にわたり説明を行ったが、Xから必要書類の提出がなかった。

③ (上記4.2の⑤について)業務改善助成金交付要綱9条1項によれば、交付決定時の事業実施計画と異なる内容を実施する場合には、計画変更承認を受ける必要がある。計画変更承認前の支出は支給対象外である。Xが要件を遵守しなかった結果である以上、A労働局長の判断は不合理であるとはいえない。

4 総務省行政不服審査会の答申(令和7年度答申第38号

 厚生労働大臣から諮問を受けた総務省行政不服審査会は、上記4.3の厚生労働大臣の意見を「妥当とはいえない」と判断しました。

① Xが支払った5万円が申込証拠金であるかは不明である。

② 軽微な変更が事業者の判断において行いうるとされている(補助金等適正化法7条1項3号かっこ内)以上、交付決定内容に完全に一致することを要求するものではないと解される。仮に正規の変更承認申請が出されていれば承認されたであろう場合においては、特にそのような不突合が事業者の責めに帰すべきものと認められない限り、適合するものと解して差し支えないものと思われる。

③ 本件では、

  • Xが計画変更申請を行い、A労働局長が承認していること
  • 業務改善助成金の目的は、生産性向上、労働能率の増進に資する設備投資等とともに、賃金の引上げを行う中小企業事業者に対し、その設備投資等に要した費用の一部を助成することにより、最低賃金の引上げに向けた環境整備を図ることにあるところ、A労働局長が、本件購入自動車の導入により、Xにおける業務の効率化を図るという目的は達成されると認めたからこそ計画変更申請を承認したと評価できること
  • 計画変更は、当初購入予定の自動車が取得できなかったという事情によるものでXの責めに帰すべき事情によるものではないこと

 から、交付決定の内容に適合していると解すべきである。

5 事例から見える教訓

 このように、Xの不服は、総務省行政不服審査会の答申において、妥当であるという判断が下されています。

 紛争化した経緯を推測しますと、おそらく事業実績報告書及び支給申請書の提出段階(上記3.3)でXと労働局との間のコミュニケーションがうまくいっていなかったのだと思います。Xは行政から十分な説明がなかったと主張し(上記4.2の④)、A労働局長は再三にわたって説明したと主張しており(上記4.3の②)、立場によって見えている景色があまりにも異なっているためです。

 そうすると、この事例の紛争化の種は、Xが、事業実績報告書提出段階で、自ら抱いている疑問を適切に伝えられていなかったり、労働局の職員が言っている助言を上手く消化できなかったりした可能性にあります。

 紛争化を避けるために企業側としてできることは、疑問点を適切に伝え、行政の職員が言っていることを理解できるようにすることということになりますが、自社の従業員だけでこれらを実現することは困難と言わざるを得ず、専門家のサポートを得ることが肝要となります。

 また、行政実務の特徴として、大量の案件を迅速に処理していくために、マニュアル至上主義に陥りやすいことが挙げられます。そのため、企業側が適切に行政とコミュニケーションを取っていたとしても、思い描いた結果にならないこともありえます。

最後に

 補助金の収入を見込んで事業活動をしている中で、突如、補助金が減額されたり、不支給となったりすれば、事業への影響は避けられません。

 できる限り不交付決定、減額の交付額確定処分を受けないように、必要書類を適切に提出したり、行政と適切にコミュニケーションをとったりするということが最も大切になってきます。

 企業側が最善を尽くしたとしても、上記4の事例のように不利益な処分を受ける事態に陥る可能性もありますし、行政の裁量が広い分野ですので、思わぬ理由で減額・不支給となる可能性もあります。

 そのため、補助金実務は、当該分野に詳しい専門家にご相談することをお勧めします。

 

以上

 

 

 


[1] 大きく報道された事例ですと、「宮本から君へ」助成金訴訟です(最高裁判所令和5年11月17日第二小法廷判決)。映画制作会社が、独立行政法人日本芸術文化振興会が行っていた「文化芸術振興費補助金による助成金」の不交付決定を受けたことを不服として裁判で争われました。

[2] 小澤研也(編)「補助金等適正化法講義」16ページ

[3] 例えば、文化庁が実施していた「コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業」に関する文化芸術振興費補助金は、交付決定の後、申請事業者から概算払請求をして、文化庁長官が概算払いをするという仕組みとなっていました。新型コロナウイルス感染症対策という緊急度が高い補助金だったため、このような例外的な手続となっていたのだと思われます。

[4] 審査請求とは、行政が出した処分に対して不服がある場合の紛争解決手段の一つです(行政不服審査法)。裁判は裁判官が判断しますが、審査請求は行政機関が判断します。


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