【I&S インサイト】オンライン診療の法定化を含む医療法等改正の整理 地域医療構想・医師偏在対策・医療DXの三位一体改革
DATE 2026.02.25
執筆者:越田 雄樹
目次
オンライン診療の法定化を含む医療法等改正の整理
地域医療構想・医師偏在対策・医療DXの三位一体改革
はじめに
令和7年に成立した医療法等の一部改正は、個別制度の修正にとどまるものではなく、「2040年を見据えた医療提供体制の再設計」を目的とするものです。
高齢化の進展と人口減少が同時に進む中、国民皆保険を持続可能な形で維持するために、①地域医療構想の見直し、②医師偏在是正、③医療DXの推進という三本柱を一体的に実施する枠組みが整備されました。
本稿では、医療法等の改正にあたっての整理をいたします。
地域医療構想の転換、病床再編から供給体制全体設計へ
従来の地域医療構想は、病床機能の再編を中心とする枠組みでした。しかし今回の改正では、その対象が「入院・外来・在宅医療・介護連携」を含む医療提供体制全体へと拡張されました。これは、単なる病床数の調整から、地域単位での医療機能の最適化へと政策軸が転換したことを意味します。
また、医療機関機能(高齢者救急、地域急性期、在宅連携等)の報告制度が設けられ、市町村の関与も明確化されました。これにより、地域医療構想はより実質的なガバナンス機能を帯びることになります。
さらに、病床削減支援事業が制度化され、都道府県は、その地域の実情を踏まえ、医療機関がその経営の安定を図るために緊急に病床数を削減することを支援する事業を行うことができることとするとともに、医療機関が当該事業に基づき病床数を削減したときは、厚生労働省令で定める場合を除き、医療計画において定める基準病床数を削減するものとされます。そして、国は、医療保険の保険料に係る国民の負担の抑制を図りつつ持続可能な医療保険制度を構築するため、予算の範囲内において、当該事業に要する費用を負担することとなりました。
オンライン診療の法定化
これまでガイドライン(「オンライン診療の適切な実施に関する指針」)ベースで運用されてきたオンライン診療が、医療法上明確に定義された点は重要です。また、オンライン診療を受ける場所を提供する「受診施設」の規定も整備され、医療機関外での提供体制に法的根拠が与えられました。
本改正によって、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」で定められているような内容が省令として規定され、違反に対しては都道府県知事等の是正命令等が可能になることが想定されます。
その他の改正法の施行に向けて、上記含め政省令等で定める必要がある事項としては、下記が挙げられています。
(1)オンライン診療を実施する医療機関の届出について
(2)オンライン診療受診施設の設置に係る届出等について
(3)広告規制等について
(4)オンライン診療基準、オンライン診療指針等について
(5)医療機関の管理者の措置/オンライン診療受診施設の公表について
(6)法令違反等への対応について
(7)オンライン診療受診施設の利用に係る費用について
オンライン診療について、国会の附帯決議では、時間・距離・対面割合等について過剰な規制を設けないことが明示されています。また、急変時の受入れ合意取得についても一律義務化を避けるよう求められています。
なお、保険薬局は、保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則において、保険医療機関等との関係性について、経済上の利益の提供による誘引の禁止(保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第2条の3の2)などが禁止されています。今後、保険薬局とオンライン診療受診施設との関係性についても、同様に禁止するよう規定することとなる方向で議論されています。
<改正条文>(令和8年4月1日施行)
|
第2条の2 この法律において、「オンライン診療」とは、医師又は歯科医師の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下この項において同じ。)と患者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織を使用し、映像及び音声の送受信により、医師又は歯科医師及び遠隔の地にある患者が相手の状態を相互に認識しながら通話することが可能な方法による診療をいう。 2 この法律において、「オンライン診療受診施設」とは、当該施設の設置者が、業として、オンライン診療を行う医師又は歯科医師の勤務する病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院に対して、その行うオンライン診療を患者が受ける場所として提供する施設をいう。
第14条の3 厚生労働大臣は、厚生労働省令で、オンライン診療の適切な実施に関する基準を定めなければならない。 2 前項の基準は、次に掲げる事項について定めるものとする。 一 オンライン診療を行うに当たり病院又は診療所において必要な施設及び設備並びに人員の配置に関する事項 二 患者がオンライン診療を受ける場所に関する事項 三 オンライン診療を行うに当たり患者に対して行う説明に関する事項 四 他の病院又は診療所との連携その他の患者の病状が急変した場合において適切な治療を提供するための体制の確保に関する事項 五 その他オンライン診療の適切な実施に関し必要な事項 3 オンライン診療は、第一項の基準に従つて行われなければならない。
第14条の4 オンライン診療を行う医師又は歯科医師が勤務する病院又は診療所(次条において「オンライン診療実施病院等」という。)の管理者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該医師又は歯科医師が行うオンライン診療を前条第一項の基準に適合させるために必要な措置を講じなければならない。 第14条の5 オンライン診療受診施設の設置者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該オンライン診療受診施設が第十四条の三第二項第二号に掲げる事項に係る同条第一項の基準に適合する旨その他のオンライン診療実施病院等の管理者のオンライン診療受診施設の選択に資するものとして厚生労働省令で定める事項を公表しなければならない。 |
美容医療の定期報告義務
自由診療が中心である美容医療分野において、定期報告義務が創設された点も重要です。行政が実態を把握する基盤が整備されたことは、将来的な安全規制や広告規制強化の前段階と位置付けることができます。
美容医療は、広告表示、インフルエンサーマーケティング、価格表示、キャンセルポリシーなど、消費者法的リスクが顕在化しやすい領域です。今回の報告義務創設は、自由診療であっても行政的統制の射程内にあることを改めて明確にしたものといえます。
なお、美容医療分野については、令和6年6月から開催された「美容医療の適切な実施に関する検討会」において包括的検討が行われ、令和6年11月22日に報告書が公表されました。
同報告書では、美容医療の特徴を次のように整理しています。
・傷病治療ではなく、患者の主観的満足・コンプレックス解消を目的とする
・自由診療であり、保険診療に比べ監査・指導の範囲が限定的
・契約内容が自由であり、高額契約が成立しやすい
・無資格カウンセラーの関与など、医行為と契約実務が混在
その上で、以下の課題が指摘されています。
・医療の質のばらつき
・違法・違法疑い事例の存在(無資格医行為、無診察治療等)
・診療録記載の不備
・契約面のトラブル(即日契約、高額解約料等)
・患者が適切な相談窓口にアクセスできない問題
そして、これらの課題を踏まえ、報告書では具体策として次を提言しています。
①美容医療実施医療機関に対する年1回の安全管理措置等の定期報告制度
②報告内容の公表
③診療録記載事項の徹底
④医師法・保助看法違反疑い事例への立入検査プロセスの明確化
⑤関係学会による統一的ガイドライン策定
⑥医療広告規制の取締り強化
⑦消費者保護法制の周知
今回の医療法改正における「美容医療の定期報告義務」は、まさにこの報告書の提言を制度化するものと位置づけられます。すなわち、美容医療は「自由診療だから統制が緩い分野」から、「行政が実態を把握し、公表を通じて市場規律を働かせる分野」へと転換することになります。
<改正条文>(公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日施行)
| 第6条の12の2 美容を目的として人の皮膚若しくは歯牙を清潔にし、若しくは美化し、身体を整え、又は体重を減ずるための医学的処置、手術及びその他の治療を行う病院又は診療所であつて厚生労働省令で定めるものの管理者は、厚生労働省令で定めるところにより、前条に規定する措置の状況その他の医療の安全の確保のために必要な情報として厚生労働省令で定める事項を当該病院又は診療所の所在地の都道府県知事(診療所にあつては、その所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、当該保健所を設置する市の市長又は特別区の区長。以下この条、第十五条第三項及び第十八条において同じ。)に報告しなければならない。 2 前項の規定による報告をした病院又は診療所の管理者は、同項の規定により報告した事項について変更が生じたときは、厚生労働省令で定めるところにより、速やかに当該病院又は診療所の所在地の都道府県知事に報告しなければならない。 3 都道府県知事は、前二項の規定による報告の内容を確認するために必要があると認めるときは、市町村その他の官公署に対し、当該都道府県(診療所にあつては、その所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、当該保健所を設置する市又は特別区。第十八条において同じ。)の区域内に所在する第一項に規定する病院又は診療所に関し必要な情報の提供を求めることができる。 4 都道府県知事は、厚生労働省令で定めるところにより、第一項の規定により報告された事項のうち医療の安全の確保のために特に必要な事項として厚生労働省令で定めるものを公表しなければならない。 5 都道府県知事は、第一項に規定する病院又は診療所の管理者が同項若しくは第二項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたときは、期間を定めて、当該病院又は診療所の開設者に対し、当該管理者をしてその報告を行わせ、又はその報告の内容を是正させることを命ずることができる。 |
医師偏在是正・保険医療機関管理者要件の厳格化
外来医師過多区域においては、新規開設希望者に対する事前届出制度、要請・勧告制度が導入されました。これに従わない場合、保険医療機関の指定期間が6年から3年へ短縮され得ます。
また、今回の改正で実務的インパクトが大きいのは、保険医療機関の管理者要件の厳格化です。
管理者は、保険医であり、臨床研修修了後一定期間の保険医療機関従事経験を有することが求められます。また、診療報酬請求の適正管理、療担規則遵守監督、記録保存、地域連携確保などの責務が明確化されました。
さらに、故意または重大な過失により不正請求が行われた場合には、管理者に対する指定取消しや保険医取消しも可能となります。これは、いわゆる「名義貸し院長」構造に対する実質的な終止符と評価できます。
医療法人のガバナンス設計、管理者選任、内部統制体制の整備は、今後さらに重要な経営課題となります。
<健康保険法改正条文>(令和8年4月1日施行)
| 第70条の1 保険医療機関の管理者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する者でなければならない。 一 保険医であること。 二 医師法(昭和二十三年法律第二百一号)第十六条の二第一項の規定による臨床研修の修了後に保険医療機関(病院に限る。)において保険医として三年以上診療に従事した経験又は歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)第十六条の二第一項の規定による臨床研修の修了後に保険医療機関において保険医として三年以上診療に従事した経験その他の厚生労働省令で定める要件を備える者であること。 2 保険医療機関の管理者は、適正な医療の効率的な提供を図るため、厚生労働省令で定めるところにより、当該保険医療機関に勤務する医師、歯科医師、薬剤師その他の従業者を監督するとともに、当該保険医療機関の管理及び運営につき、必要な注意をしなければならない。 |
医療DX
政府は2030年末までに電子カルテ普及率約100%を達成することを目標として掲げています。単なる努力目標ではなく、政策的強度を持つ方向性が示されています。
さらに、医療・介護データベースの仮名化情報の二次利用が可能となりました。医療データ利活用市場は拡大し、AI診断補助や創薬支援、ヘルスケア解析ビジネスの加速が見込まれます。
他方で、個人情報保護法や医療情報ガイドラインとの関係整理、データガバナンス体制の構築が不可欠となります。
最後に
本改正は、供給量の調整、人的資源の再配分、管理責任の強化、デジタル基盤整備を同時に進める包括的な制度転換です。
医療機関にとっては、地域計画への適合、内部統制の強化、DX対応が経営存続の前提条件となります。
デジタル医療事業者にとっては、市場拡大と同時に規制適合能力が問われる時代に入ったといえます。
医療提供体制は、自由市場的競争から、機能別・計画的統制へと徐々に軸足を移しつつあります。本改正は、その制度的基盤を確立するものであり、今後10年の医療政策の方向性を決定づけるものと評価できます。
以上
詳細情報
| 執筆者 |
|
|---|---|
| 取り扱い分野 |
取り扱い分野で絞り込む
- 独占禁止法/競争法
- 独占禁止法の当局対応
- 独占禁止法/競争法上のアドバイス
- 他社の独禁法違反に対する対応
- 独占禁止法コンプライアンス
- 不正競争防止法/営業秘密
- 企業結合審査/業務提携
- 外国競争法
- 知的財産権と独占禁止法
- 取適法(改正下請法)
- 消費者法
- 景品表示法・その他の表示規制の相談
- 景品表示法・その他の表示規制の相談
- 景品規制
- 景品表示法コンプライアンス
- 他社の景表法違反に対する対応
- 景品表示法の当局対応(危機管理)
- 広告代理店/アフィリエイターによる広告
- 食品表示
- 個人情報・プライバシー・セキュリティ
- 消費者安全関係/PL(製造物責任)
- 特定商取引法・電子メール規制
- 消費者争訟・消費者団体対応
- プライバシー/情報法
- 個人情報保護法
- プライバシー保護・データプロテクション・海外法制(GDPR等)対応
- サイバーセキュリティ・情報漏えい対応
- 電子商取引法・デジタルプラットフォーム規制
- 関連分野
- 一般企業法務(ジェネラル・コーポレート)
- 国際業務
- 贈収賄規制
- 通商法・国際経済法
- ヘルスケア
- IT
- ゲーム
- 広告ビジネス
- 電気通信事業