【I&S インサイト】化粧品広告における「成分の特記表示」規制の実務整理

執筆者:越田 雄樹

 

化粧品広告における「成分の特記表示」規制の実務整理

 

はじめに

近年、化粧品市場では差別化のために特定の配合成分を強調するパッケージや広告(いわゆる「特記表示」)が一般化しています。しかし、化粧品は医薬品ではないため、その成分があたかも薬効を持つかのように訴求することは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」により厳しく規制されています。

本稿では、令和7310日付で厚生労働省医薬局より発出された通知「化粧品における特定成分の特記表示について」(医薬監麻発03103号)(以下「令和7年通知」といいます。)に基づき、成分表示の新たな実務ルールを解説するとともに、その前提となる「化粧品の効能効果の範囲(56項目)」も含めて網羅的に整理します。

 

「特記表示」とは何か、なぜ規制されるのか

(1)特記表示の定義

「特定成分の特記表示」とは、化粧品の広告や包装において、商品に配合されている全成分のうち、特定の成分を抜粋して表示することを指します。例えば、パッケージ表面に「コラーゲン配合」と大きく記載したり、ウェブ広告で「ビタミンC誘導体」をキャッチコピーとして強調したりする行為がこれに該当します。容器裏面の「全成分表示」として全ての成分を同等に記載する場合は、特記表示には該当しません。

 

(2)規制の趣旨:有効成分との誤認防止

特定の成分を強調することは、消費者に以下の誤認を与えるリスクがあります。

①その成分が医薬品等の「有効成分」であるかのような誤認

②通常の化粧品よりも効果や安全性が優れているという誤認

③その成分が主成分であるという誤認

そのため、厚生労働省は「化粧品において特定成分を特記表示することは、原則として行わないこと」としており、後述する要件を満たす場合に限り例外的に認めるという立場をとっています。

 

特記表示を行うための必須要件

令和7年通知により、特記表示を行うためのルールが明確化されました。特記表示を行うためには、以下の要件を遵守する必要があります。

 

(1)「配合目的」の併記義務

特定成分を特記表示する場合、「配合目的」を必ず併記しなければなりません。単に成分名を表示するだけでは不十分であり、その成分が製品中でどのような役割(保湿、着色など)を果たしているのかを明示する必要があります。

 

(2)配合目的の内容と実証

併記する配合目的は、以下のいずれかに基づく表現であり、かつ客観的に実証されている必要があります。

①化粧品の効能効果に基づく表現(例:「保湿成分」「肌を整える成分」など)

②製剤技術に基づく表現(例:「増粘剤」「製品の酸化防止剤」など)

ここで重要となるのが、「化粧品の効能効果」とは具体的に何かという点です。これは恣意的に決めてよいものではなく、通知で定められた「56項目」の範囲内に収める必要があります。

 

    「化粧品の効能効果の範囲」における全56項目

    「医薬品等適正広告基準」および関連通知において、化粧品において標榜可能な効能効果は、以下の56項目に限定されています。特記表示に添える「配合目的」も、原則としてこの項目の範囲内(または製剤技術的な事実)でなければなりません。

     

    【化粧品の効能の範囲(全56項目)】

    ※(56)については、日本香粧品学会の「化粧品機能評価ガイドライン」に基づく試験等を行い、その効果を確認した場合に限られます。

     

    特記表示を行う際は、例えば「保湿成分 コラーゲン配合」(上記(24)等に対応)や、「肌を整える成分 ビタミンC誘導体配合」(上記(19)に対応)といった形で、この56項目のいずれかに関連付けた配合目的を記載することが求められます。

     

    実務上の注意点

    令和7年通知を踏まえ、実務上注意すべき「特記表示」のポイントを整理します。

     

    (1)薬理作用を暗示する表現の禁止

    成分名に「薬」という文字が含まれる場合(例:「生薬エキス」「薬草抽出物」)や、医薬品的な印象を与える名称(例:「漢方成分」)は、たとえ配合目的を併記しても使用が認められません。また、医薬部外品の有効成分と同じ成分(例:グリチルリチン酸ジカリウム)を配合する場合、「消炎剤」等の配合目的を記載することはできません。「消炎」は上記の「化粧品の効能の範囲」の56項目に含まれていないためです。

     

    (2)配合目的の記載場所

    配合目的は、原則として成分名の「前」または「後」に記載します。デザインの都合上、注記()などで離れた場所に記載する場合でも、文字の大きさ、フォント、色などに留意し、消費者が成分と配合目的を容易に結び付けて読めるようにしなければなりません。動画広告においては、画面表示やナレーションによって、視聴者が配合目的を理解できるようにする必要があります。

     

    (3)化粧品の効能の範囲の56項目以外の表現(製剤技術)

    56項目以外で認められる配合目的としては、「製剤技術」に基づく表現があります。

    認められる例としては、

    ①スクワラン配合により、のびのよい軽い感触が楽しめます。

    ②シルクパウダー配合(さらさら成分)

    などが挙げられます。

    これらは、製剤技術に基づく化粧品としての配合目的が記載されており、有効成分との誤認がないため問題がありません。

     

    (4)インフルエンサー等による広告

    近年は、インフルエンサー等によるSNS投稿や動画広告において、特定成分を強調した表現が用いられるケースが増えています。しかし、これらの表現についても、事業者自身の広告と同様に、特定成分の特記表示の問題が生じえます。

    インフルエンサー等による広告の場合であっても、成分名のみを強調し、配合目的の説明が十分でない投稿や、医薬品的効能を想起させる表現が用いられている場合には、広告全体として特記表示の違反と評価される可能性があるため、事業者は投稿内容についても事前に十分な確認・管理を行う必要があります。

     

    特記表示に係るペナルティ

    令和7年通知自体には、特記表示に係る違反があった場合のペナルティについては明記されていません。しかし、特記表示の規制趣旨は、その成分が医薬品等の「有効成分」であるかのような誤認を防止すること等にあると考えると、令和7年通知の要件を満たさない特記表示は、薬機法第66条又は第68条の違反として扱われて、措置命令等の行政処分や罰則規定の対象となる可能性があるため、法的な整理を正しく理解しておく必要があります。

    (薬機法の広告規制違反の詳細はこちら:https://www.ikedasomeya.com/insight/5772

     

    まとめ

    化粧品の広告制作においては、キャッチーな成分訴求を行いたいというマーケティング上の要請が強く働きます。しかし、法的な観点からは、「特記表示には配合目的の併記が必須」であり、かつ「その目的は化粧品の効能範囲(56項目)または製剤技術的事実に限定される」という二重の縛りがあることを理解する必要があります。
    弁護士としては、クライアントの広告原稿をチェックする際、以下の3段階の確認を行うことを推奨します。
    ①特定成分が強調されているか?(文字サイズ、色、写真等)
    ②その成分に「配合目的」が併記されているか?
    ③その配合目的は、上記の「56項目」または「製剤技術」の範囲内か?(「若返り」「細胞活性」「消炎」などの逸脱がないか)
    これらのルールを遵守することは、行政指導のリスクを回避するだけでなく、消費者に正しい情報を伝え、信頼されるブランドを構築する上でも不可欠です。

     

     

    以上

     

     

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