【I&S インサイト】葬儀事業と景品表示法・独占禁止法

執筆者:越田 雄樹

葬儀事業と景品表示法・独占禁止法

 

はじめに(なぜ葬儀事業では法律違反が起きやすいか)

 

葬儀サービスは、消費者は大切な故人との別れに際し、冷静な判断が難しい状況にあり、消費者が予期せぬ形で、精神的な負担が大きい状況下で選択・契約を迫られることが多く、その性質上、法的トラブルが発生しやすい特殊な取引分野といえます。

消費者は、葬儀サービスを選択するにあたって、サービス内容や費用について十分に比較検討する時間的・精神的余裕がないことが少なくありません。

このような消費者の脆弱性は、不当な表示や取引慣行が生じやすい温床となり得ます。

公正取引委員会の調査報告書によると、日本の葬儀市場では、死亡者数の増加に伴い葬儀件数自体は増加しているものの、「一般葬」が減少し、「家族葬」や「直葬」、「一日葬」といった小規模な葬儀が増加傾向にあります。これにより、葬儀1件当たりの売上高は減少傾向にあり、葬儀業者にとっては収益確保の圧力が増しています。

また、市場では大手葬儀業者の事業拡大と中小事業者の二極化が進む傾向が見られ、異業種からの新規参入も活発化しています。

上記のような競争環境の中で、葬儀業者は利益の維持・拡大を図るため、利益の補填やコスト削減を納入業者に求める傾向が見られ 、結果として納入業者が不当な要請を受け入れざるを得ない状況が生じています。

こうした構造的な問題が、消費者に対する表示の不透明性や、事業者間の不公正な取引慣行という形で、景品表示法や独占禁止法上の問題を引き起こす要因となっています。

 

景品表示法の視点

 

景品表示法は、一般消費者が商品や役務を自主的かつ合理的に選択できる環境を保護することを目的としています。この法律は、商品や役務の品質、価格、その他の取引条件に関して消費者を誤認させる不当な表示を禁止しており、特に葬儀サービスにおいては「有利誤認表示」が問題となるケースが多数見られます。

有利誤認表示とは、事業者によって提供される商品や役務の価格その他の取引条件が、実際のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示を指します。これにより、不当に顧客を誘引し、消費者の合理的な選択を阻害するおそれがある場合に景品表示法違反となります。

葬儀サービスにおける主な有利誤認表示の具体例は以下のとおりです。

 

(1)「必要なものが全てコミコミ」「追加料金一切不要」などと表示しながら、実際には追加料金が発生するケース

 

①イオンライフ株式会社に対する措置命令(平成29年12月22日)

イオンライフは、「追加料金不要」と記載したうえで「火葬式198,000円(税込)」、「1日葬348,000円(税込)」などと表示していました。

しかし、実際には、寝台車・霊柩車の搬送距離が1回最大50kmを超える場合、葬儀社等における安置日数が各設定日数を超えるドライアイスの追加が必要な場合、火葬場利用料が15,000円を超える場合、式場利用料が50,000円を超える場合などに追加料金が発生していました。

 

株式会社よりそうに対する措置命令(令和元年614日)

よりそうは、「シンプルなお葬式」または「よりそうのお葬式」の「家族葬 無宗教プラン」や「一般葬 仏式プラン」などのサービスで、「必要なものが全てコミコミだから安心この金額で葬儀ができます」、「全てセットの定額」などと表示していました。

しかし、実際には、寝台車・霊柩車の搬送距離が1回最大50kmを超える場合、葬儀社等における安置日数が4日を超えてドライアイスの追加が必要な場合、火葬場利用料が15,000円を超える場合、式場利用料が50,000円を超える場合などに追加料金が発生していました。

なお、よりそうは追加料金が発生する場合がある旨の表示をしていましたが、それがメインの表示から離れた場所に小さな文字で表示されていたり、クリックしなければ表示されないリンク先にあったりするなど、一般消費者の認識を打ち消すものではないと判断されました。

 

株式会社ユニクエストに対する措置命令(平成301221日)及び課徴金納付命令(令和372日)

ユニクエストは、「小さなお葬式」の「小さな火葬式」や「小さな家族葬」などのサービスで、「追加料金一切不要のお葬式」、「プラン金額がお葬式にかかる全ての費用です。」などと表示していました。

しかし、実際には、寝台車・霊柩車の搬送距離が50kmを超える場合、葬儀社等や自宅における安置日数が設定日数を超える場合、火葬場利用料が市民料金を超える場合、外部式場利用料が設定金額を超える場合などに追加料金が発生していました。

なお、ユニクエストも追加料金に関する打ち消し表示をしていましたが、「よくある質問」などのリンクをクリックしなければ表示されず、一般消費者の認識を打ち消すものではないと判断されました。

 

④株式会社那覇直葬センターに対する措置命令(令和6530日)

那覇直葬センターは、「直葬プラン」または「火葬プラン」と称する葬儀サービスで、日刊新聞紙のチラシや自社ウェブサイトにおいて、個室での遺体面会や供花・仏具設置を含め「77,000円(税込)」と表示し、追加料金が発生しないかのように見せかけていました 。

しかし、実際には、個室での面会や供花・仏具設置には追加料金が発生していました

 

(2)比較広告において不当に自社が有利であるかのように見せかけるケース

消費者庁は、「葬儀事業者における葬儀費用に係る表示の適正化について」(平成2423日)を公表しておりますがその中で、葬儀事業者の広告で他社との葬儀費用を比較し、自社が割安であると示す比較広告がしばしば行われていることを指摘しています。景品表示法上の比較広告の考え方によれば、比較広告が不当表示とならないためには、

(ア)主張内容が客観的に実証されていること、

(イ)実証された数値や事実を正確かつ適正に引用すること、

(ウ)比較の方法が公正であること

3つの要件を満たす必要があります。

 

消費者庁の注意事例では、「他社平均葬儀費用」と「当社平均葬儀費用」の算出基準が異なっており、他社費用には「寺院への費用」や「その他の事業者等へ支払う費用」が含まれるなど、一般消費者が葬儀事業者に支払う費用という同一の基準で比較しているとは認められないとしており、自社の葬儀費用が他社に比べて割安であると誤認させるおそれがあるとされました。

 

独占禁止法の視点

 

独占禁止法は、事業者間の公正な競争を促進し、消費者の利益を保護することを目的としており、不公正な取引方法の類型として、優越的地位の濫用を規制しています 。公正取引委員会の「葬儀の取引に関する実態調査報告書」は、葬儀業界における葬儀業者と納入業者間の取引実態に焦点を当てています。

調査結果によると、集計対象取引全体の29.9%が、「葬儀業者から今後の取引への影響を示唆されたため」または「要請を断った場合に、今後の取引に影響が出ると自社が判断したため」といった理由でやむを得ず受け入れざるを得なかったケースが、全ての行為類型において半数以上、最大で90%以上の割合で見られました。また、取引年数が長い納入業者ほど、このような不利益な要請を受け入れる割合が高い傾向にあることも明らかになっています。

優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為として、以下の類型があります。

 

  • 商品・サービスの購入・利用の要請(14.9%

納入業者にとって不必要なイベントチケットやおせち料理の購入、互助会への加入などを要請し、取引継続のために応じざるを得ない事例が多数報告されています。

  • 採算確保が困難な取引(買いたたき)(11.4%

納入価格の一方的な引き下げや、費用が追加でかかる業務を通常の価格で強要するケースが含まれます。

  • 金銭・物品の提供の要請(9.0%

売上につながらないイベントでの景品提供や協賛金、修繕費の負担などを要請するケースがあります。

  • 発注内容の変更に伴う費用負担(7.6%

発注ミスや直前キャンセルによる損害を納入業者に負担させるケースが挙げられます。

  • 返品(6.4%

不良品ではないのに、売れ残りを理由に返品を受け付けさせるケースが見られます。

  • 発注内容以外の作業等(5.1%

ゴミ処理、祭壇組立、司会、会場案内など、契約外の作業を無償で強要するケースです。

  • 従業員等の派遣の要請(4.6% :葬儀業者の人手不足を理由に、説明要員や配膳要員などの派遣を無償で要請し、費用負担をさせないケースです。
  • やり直しに伴う費用負担(4.1%

葬儀業者側のミスによる作り直し費用を納入業者に負担させるケースです。

  • 代金の支払遅延(2.4%

葬儀業者側の都合や顧客からの入金遅延を理由に、納入業者への支払いを遅らせるケースです。

  • 代金の減額(1.9%

顧客への割引を理由に、納入価格を一方的に減額するケースです。

 

これらの行為は、独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当する可能性があり、また、納入業者の資本金等の条件によっては下請法違反にもつながり得ます。

 

葬儀事業において法律違反を行わないために

 

葬儀事業者が景品表示法や独占禁止法に違反しないために、まず経営層が法令遵守の重要性を正しく理解し、率先してコンプライアンス推進の旗振り役を担うことが求められます。あわせて、現場の担当者が日々の業務において適切な判断を下せるよう、法的知識の研修や定期的な勉強会の実施が不可欠です。

さらに、広告や営業活動、取引契約の審査においては、法務部門や外部専門家と連携し、事前確認のフローを整備することが望ましいです。万一、違反のリスクが判明した場合には速やかに是正措置を講じる体制を整えておくことで、企業としての信頼性を高め、利用者や取引先との健全な関係構築にもつながります。

このような継続的な取組みを通じて、葬儀事業者としての社会的責任を果たしながら、安心して利用されるサービス提供体制を築いていくことが可能になります。

 

 

以上

 

 

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