【I&S インサイト】オンラインカジノとオンラインオリパは何が違う?-賭博罪該当性の線引き-
DATE 2025.05.30
執筆者:小野 翔太郎
オンラインカジノとオンラインオリパは何が違う?
-賭博罪該当性の線引き-
はじめに
昨今、オンラインカジノを利用したことによる著名人の賭博罪での摘発が相次いでいます。警視庁では、当リンクのような注意喚起サイトも設けられており、警察全体として、オンラインカジノ案件の摘発に力を入れているようです。このような時流に照らし、事業者の皆様も、オンラインカジノに対する警戒心を高めているのではないでしょうか。
他方で、一定のランダム要素を取り入れた商品、サービスというのは世に蔓延っております。一時期、カードショップが、トレーディングカードをブラインドで封入して作成する、いわゆるオリパは、賭博ではないかというSNSの投稿が盛り上がった時期もありましたが、現在、少なくともオンラインオリパを含むオリパについて、警視庁がオンラインカジノのような注意喚起サイトを作っている様子はなく、明確に賭博とはされていないようにも思われるところです。しかし、事業者の皆様が、オンラインオリパや、その他一定のランダム要素を取り入れた商品・サービスを提供しようと考えた場合、そのような商品・サービスが、本当に賭博罪で違法とされるオンラインカジノとどう違うのか、はたまた同じように賭博に該当して違法なのかどうかについて、悩まれることも多いのではないかと思います。
そこで、本稿では、何が賭博であり、何が賭博でないのかの線引きについて、可能な限り整理してみたいと思います。
そもそも、賭博とは?
賭博罪は、刑法185条に規定される罪であり、「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。」とされています。ここでいう「賭博」とは、偶然の事情により、財物(財産的価値を含む。)の得喪を争う行為をいうものとされていますので、この定義に該当するかどうかが、第一に問題となります。
ただし、同条においては、「ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。」とされています。そのため、賭博罪の成否の判断においては、ここでいう「一時の娯楽に供する物」と言えるかどうか、という点が二次的に問題となるわけです。
なお、賭博罪は、「賭博を行った者」に対して成立する罪でございます。そのため、ある事業者が賭博となるサービスを提供した場合、そのサービスの利用者に賭博罪が成立することもさることながら、サービスの提供者である事業者には、賭博に参加すれば賭博罪が成立しますが、それと同時に、賭博開帳図利罪(刑法186条2項)というより重い罪(3月以上5年以下の懲役刑)が科される可能性もありますので、その点にはご留意いただく必要があります(もちろん、提供するサービスが賭博でない場合には、賭博開帳図利罪も成立しません。)。
オンラインカジノはなぜ賭博なのか?
⑴ 一般的なオンラインカジノのスキーム
オンラインカジノが賭博に該当するのかどうかを検討するに当たって、オンラインカジノがどのようなサービスであるのかを概観していくと
① 利用者は、オンラインカジノ運営店の発行するゲームに使用するポイントを有償で購入する。
② オンラインカジノ運営店は、サーバーを通じてインターネット上で利用者にポイントを使用したゲームを行わせる。
このゲームは偶然性によって勝敗が決するもので、勝てばポイントが増え、負ければポイントを失う。
③ 利用者は、これらのポイントを、ポイントの数量に応じた財産的価値(金銭を含む。)に変換できる。
というようなシステムであることが多いと思われます。
⑵ オンラインカジノを違法とした裁判例からみる賭博罪該当性の判断手法
上記のようなオンラインカジノについては、東京高判H18.11.28において、以下のような判示がなされ、賭博該当性が認められています。
本件は、ゲーム店に設置したパソコンを使用して、インターネットを介し、いわゆるオンラインカジノを運営する会社からオンラインゲームの配信を受け、同店舗内に設置したパソコンを使用して、客にそのゲームを行わせていたものであるところ、客は、店からパソコン画面上でゲームを行うために必要なポイントを1ポイントにつき100円で取得し、パソコンを操作して画面上で行われるゲームの結果にポイントを賭け、賭けに勝った場合は一定の倍率でポイントを取得し、ゲーム終了後1ポイントにつき100円で店から払い戻しを受け、賭けに負けた場合は賭けたポイントを失うという約束の下にゲームを行ったものであるから、客は、パソコン画面上で行われるゲームの結果という偶然の事情にポイントを賭け、賭けに勝った場合はポイントを取得して、これに見合う金員を店から取得し、賭けに負けた場合はポイントを失って、店がそれに見合う金員を取得するという関係が認められるのであるから、店と客とは、パソコン画面上のポイントを介して現金の得喪を争っていたことになり、これが店にとっても客にとっても賭博に当たることは明らかである。
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上記判示は、結局のところ、仮にポイントという、それ自体は現金そのものではないものであったとしても、偶然の事情によってその得喪を争っており、かつ、ポイントが現金に換価可能であったという事情に照らすと、偶然の事情により、財物(財産的価値を含む。)の得喪を争う行為があったとして、賭博該当性も優に認められるとしたものであると考えられます。
また、本事案においては、上記⑴でみたスキームに加え、以下の特殊性がありましたが、いずれも賭博該当性を否定するものではないとされています。
❶ オンラインカジノのゲームの運営会社(以下「X」とします。)と、賭客がゲームを行ったカジノ店(以下「店」とします。)とが別であったこと
→ あくまで賭客とポイントの得喪を争った相手方が誰か、という点が重要であり、賭客がゲームに勝った際にポイントの提供を請求できる相手は、あくまでXではなく店であり、ポイントの換価を行っていたのも店であることから、店と客との間での賭博と認定されています。
❷ Xがフィリピンの会社であったこと
→ 判示上は、店と客との間での賭博と認定されていることから、店にも客にも賭博罪が成立することは当然とされています。なお、判示の記載を超えますが、仮にフィリピンの会社であるXと客との間での賭博であったと認められた場合であっても、客においては、日本で賭博を行ったことに変わりはございませんので、刑法1条1項の属地主義に基づき、賭博罪が成立するものと思われます。
パチンコはなぜ賭博ではないのか?
上記のとおりの整理を見ていくと、日本においてポピュラーなギャンブルであるパチンコも、偶然の事情により、出玉の得喪をパチンコ店と客との間で争っているので、賭博に当たるのではないかと疑問に思われるのではないでしょうか。
しかし、パチンコについては、風営法の範囲内で営業されている限り、刑法上の賭博には当たらないものとされています(平成28年11月18日の政府答弁でも、同旨の回答がされたといいます。)。
その理由について考察してみます。
⑴ 一般的なパチンコのスキーム
ご存知の方も多いのではないかと存じますが、パチンコというゲームがどのように運営されているかという点について概観すると
① 利用者は、パチンコを遊ぶために必要な出玉を、現金でパチンコ店から借りる(利用者は出玉を、パチンコを遊ぶために費消しますが、店が客に出玉を持ち出させることは、風営法23条1項3号によって禁止されていることから、借りると表現されます。)。
② 利用者は、出玉を使用してパチンコで遊戯し、出玉を増やしたり、減らしたりする。
③ 利用者は、パチンコで遊んだ後の出玉を店舗に返還するに当たり、その出玉の数に応じた特殊景品を獲得する。
と、ここまでがパチンコ店での遊戯の全貌として扱われ、「なぜか」パチンコ店の近隣に所在することの多い景品交換所にて
④ パチンコ店で獲得した特殊景品を現金に換価する
ということが行われています。
⑵ 三店方式のからくり
前記のスキームに照らすと、ますます、「偶然の事情によって最終的に現金に換価できる出玉の得喪を争っているのであるから、賭博に当たるのではないか?」との疑問が湧いてくるわけですが、そういうことにはならないのが、③と④とを分ける、いわゆる三店方式と呼ばれるからくりです。
三店方式とは、パチンコ店、景品交換所、景品問屋の三者が、特殊景品を還流させることで営業を維持する形態のことです。つまり、上記④までのスキームの後、景品問屋が、景品交換所から、客から買い取った特殊景品をさらに買取り、これをパチンコ店に卸すことによって、パチンコ店における特殊景品の数量を維持することができる、というわけです。
ここで重要なのは、この三店方式において、パチンコ店は景品交換所の存在を関知しないという建前になっていることであり、つまり、パチンコ店としては、出玉は特殊景品にしか替えられず、かつ、特殊景品が現金に換価可能なものではないと認識している、という建前があるということになります。
特殊景品は、それ自体は低価値なものであり、景品交換所で換価しない限り、購入した出玉の相当額に見合った価値を有していません。そのため、仮に景品交換所が不存在であるというパチンコ店の建前に則れば、客とパチンコ店は、低価値な特殊景品にしか替えることのできない、出玉の得喪を争っているにすぎないと言えます。したがって、出玉は「一時の娯楽に供する物」であり、その得喪を争う行為は、賭博罪該当性がないということになっているわけです。
⑶ 「パチンコ」であるということの特殊性
しかし、多くの方々は、上記のような理屈を見て、屁理屈だと思われるのではないでしょうか。実際、このような整理で賭博罪の適用を回避できているのは、パチンコがかねてより日本に根付いてきたギャンブルであり、市場規模の大きいパチンコを規制するということが現実的でないためであると考えられます。
逆に言えば、三店方式さえ取れば、パチンコではないギャンブルも許されるのか、という点については、Noである可能性が極めて高いと考えられます。本来、「一時の娯楽に供する物」かどうかの判断は、価格の僅少性と費消の即時性の2つの要素を加味して判断されるものとされていますが、少なくとも金銭は、よほど少額でない限り一時の娯楽に供する物に該当しないとされるのが判例の主流です。つまり、偶然の事情により、相当額の現金に換価できる物の得喪を争った時点で、その換価の方法がどうあれ、賭博該当性は否定できないものと考える方が良いでしょう。
オンラインオリパは賭博なのか?
これまでみてきたオンラインカジノとパチンコの例を踏まえて、いわゆるオンラインオリパが適法なのかについて考えます。
⑴ メーカーが作成するランダム排出のカードパックの賭博罪該当性
前提として、紙のトレーディングカードゲームを運営する会社は、一般的に、カードのレアリティ(希少度)に明確な優劣をつけ、ランダム要素を設けた状態で、パッケージングされた数枚のカードの束(パック)を販売しています。
これについては、賭博に該当しないのかという点を疑問に思われるかもしれませんが、こちらが賭博に該当することは基本的にないものと考えられます。
その理由については、カードゲームの運営会社は、カードを自ら発行しており、ユーザーはパックを購入することで、その発行したカードをランダムで手に入れているに過ぎないため、仮にユーザーが高レアリティのカードを手に入れた(勝利した)からといって、カードゲームの運営会社が財産的価値を喪失したという関係になく、「財物の得喪を争う」と認める余地はないものと考えられるからです。
⑵ オンラインオリパとは?
そもそも、オリパとは、オリジナルパックの略とされており、カードゲームの運営会社ではない、トレーディングカードを取り扱うショップが、開封済みのパックから排出されたカードを、再度パッキングして販売するものをいいます。
オリパは、かねてからさまざまなカードショップでよく販売されてきたものです。オンラインオリパは、近年流行してきたものですが、こちらも、ブラインド化の方法が、パッキングではなく、いわゆるガチャによってランダム性を設けるという点に違いがあるくらいで、カードゲーム運営会社が発行したカードを、別途ランダム性を設けた形で販売しているものである点に変わりはありません。
⑶ オンラインオリパのスキームと、形式的賭博罪該当性
では、以上を前提に、いわゆるオンラインオリパは賭博なのでしょうか。
オリパとカードゲーム運営会社の発行するパックとの明確な違いは、オリパを販売する事業者自身がそのカードを発行しているというわけではないということです。つまり、客がオリパを購入すれば、オリパを販売しているカードショップは、そのオリパに封入されているカードを失うという関係にあります。オリパにランダム要素を設ける趣旨は、通常、オリパの販売価格よりも高いとされるカードと、それよりも安いとされるカードを織り交ぜ、客の射倖心を煽ることで利益を上げるという点にあるわけです。その前提に照らすと、オリパからレアリティの高い、高価なカードが当たるか、レアリティの低い、低価値なカードが当たるかという点は、客の、どのオリパを選ぶかという偶然の事情や、ガチャそのものの偶然の事情によって左右されるものであり、カードショップと客との関係は、偶然の事情によって財物の得喪を争う関係にあるように思われます。
⑷ 賭博摘発にかかる立証上のハードル
ただし、オリパに封入されるカードは、所詮紙にすぎません。そのため、紙に化体された情報(イラストや、カードの効果など)によってその価値が決まるわけですが、非常に価値が流動的であり、暴騰や暴落が起きることも少なくありません。
そのため、オリパから排出されるカードのレアリティが低いものであったとしても、購入者はそのカードを購入できているわけですから、購入者が「財産を喪失した」と評価できるかどうかという問題が残ります。
この点の立証責任は、捜査機関にあることから、捜査機関の目線として、購入者が財産を喪失したと評価して差し支えないと考えるだけの証拠を収集する必要があり、この点には一定のハードルがあると言うことは可能でしょう。
終わりに(賭博該当性の線引き)
冒頭にも触れたとおり、現実問題として、ランダム要素によって客の射幸心を煽るということは、経済活動上も重要な要素であり、その賭博該当性については、パチンコやオリパなど、グレーと思われるようなものも多数あると言えます。
しかし、近年のオンラインカジノの摘発率の上昇など、これまで賭博として摘発されてこなかったものが、いつ賭博として摘発されるかは予測するのが困難です。
事業者の皆様としては、コンプライアンスの観点からも、商品やサービスにランダム要素を織り込むのであれば、可能な限り賭博とされない形で行うべきだと考えます。皆様が販売しようとしている商品やサービスが賭博に当たるかどうか、少しでも疑問に思われることがあれば、賭博に詳しい弁護士に一度ご相談いただくのが肝要でしょう。
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