【I&S インサイト】「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」報告書とフリーランス保護法の方向性

執筆者:山本 宗治

1 はじめに

20235月に公布された特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆるフリーランス保護法)に関し、2024年1月19日、「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」報告書(以下「報告書」といいます。)が公表されました。これは、公正取引委員会に設置され7回に渡り開催された検討会の検討結果を取りまとめたものです。フリーランス保護法には、公正取引委員会規則などの規則において定めることとされている事項が多くあります。同法は、公布の日から1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとされており(同法附則第1項)、本年の秋ごろまでには施行が見込まれているところ、施行に備えて事業者が具体的にどのような対応を採らなければならないかを考えるに当たり、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の動向に注目されます。

そこで、本稿では、同報告書の内容に基づいて、規則で定められるとされている事項について、現在どのような方向性が示されているかを紹介したいと思います。

 

2 フリーランス保護法第3条第1項における明示

フリーランス保護法第3条は、事業者が、特定受託事業者に対し業務委託を行う際に、「特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払い期日その他の事項」を書面又は電磁的方法によって明示することを求めています。条文では、明示すべき具体的内容は、公正取引委員会規則に定めるものとされています(太字下線部は筆者によります。)。

 (特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)

 第三条 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならない。

 2 (以下略)

 

(1) 報告書で示された方向性

この事業者が明示すべき事項として、報告書では、以下の方向性が示されています。

 

ア 明示事項とする項目の方向性

 ① 業務委託事業者及び特定受託事業者の商号、氏名若しくは名称又は番号、記号等であって業務委託事業者及び特定受託事業者を識別できるもの

 ② 業務委託をした日

 ③ 特定受託事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は、提供する役務の内容)

 ④ 特定受託事業者の給付を受領する期日又は役務の提供を受ける期日

 ⑤ 特定受託事業者の給付の場所・役務提供の場所

 ⑥ 特定受託事業者の給付・役務の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日

 ⑦ 報酬の額

 ⑧ 報酬の支払期日

 ⑨ 報酬の全部又は一部の支払につき、手形を交付する場合に必要な事項

 ⑩ 報酬の全部又は一部の支払につき、一括決済方式で支払う場合に必要な事項

 ⑪ 報酬の全部又は一部の支払につき、電子記録債権で支払う場合に必要な事項

 ⑫ 報酬の全部又は一部の支払につき、デジタル払い(報酬の資金移動業者の口座への支払)をする場合に必要な事項

 ⑬ 具体的な金額を記載することが困難なやむを得ない事情がある場合の、報酬の具体的な金額を定めることとなる算定方法

 ⑭ 業務委託をしたときに書面又は電磁的方法により明示しない事項(以下「未定事項」という。)がある場合の、未定事項の内容が定められない理由及び特定事項の内容を定めることとなる予定期日

 ⑮ 基本契約等の共通事項があらかじめ明示された場合の個別契約との関連付けの明示

 ⑯ 未定事項の内容を書面又は電磁的方法により明示する場合の、当初明示した事項との関連性を確認できる記載事項

 

イ 明示事項には含まれないがガイドライン等で明らかにすることが期待される事項

(ア)事業者の名称

業務委託事業者及び特定受託事業者の名称について、何らかの名称そのものを明示事項とすることとされているものの、その具体的内容については検討の余地が残されています。フリーランスに係る取引には氏名を開示せずに行う取引が多いという実態を考慮した意見など様々な意見が示されており、実際の氏名を記載することを避けつつ、紛争が生じたときに必要となる事項の開示を行うために、どのような形で示すべきかはガイドライン等で明らかにすることが期待されるとしてまとめられています。

(イ)知的財産権の帰属

知的財産権の帰属を定めることについては、業種は知的財産権の譲渡や許諾等が生じないことも多いことや、下請法でも一定の場合に給付の内容の一部として記載することが求められていることに留まることから、独立した記載事項とすることまでは必要なく、今後ガイドライン等で考え方が示される可能性が示されています。

(ウ)納品・検収方法

納品・検収方法を明示事項としないことにより、受領拒否や支払い遅延等のトラブルが発生するおそれがあるという意見もあったものの、そのようなトラブルを防ぐためには給付の内容を明確にすることで足り、また、明示事項として定めた場合にはフリーランスが発注者の立場に立つときに過大な負担となり得ることから、独立した明示事項として義務付ける必要まではないと考えられたようです。

そして、受領拒否や支払い遅延等のトラブルを防止するために、委託内容を具体的に記載する必要があるという考え方をガイドライン等で示すことが期待されるとまとめられています。

(エ)報酬における諸経費等の取扱い

フリーランスに対する発注控えが生じることを懸念して、諸経費を独立した明示事項として義務付けることは必要ではないという考えが示されています。他方で、ガイドライン等において、諸経費も「報酬の額」として支払う場合には、諸経費を含めた報酬の額を明示する必要があることなどを示すことが期待されています。

また、特定受託事業者が業務委託事業者に対し支払うべき額を、報酬の額から差し引いて支払う場合には、下記の第5条に定められる行為規制との関係で、ガイドライン等において明らかにすることも期待されています。

(オ)違約金等

違約金等を定めるときには、明示事項として義務付けることまでは必要ないものの、不当な違約金等が定められないようにガイドライン等で考え方を示すことが期待されています。

(カ)その他の事項(契約の終了事由、中途解除の際の費用、業務委託事業者の住所、やり直しが生じ得る場合の条件・範囲など)

これらの事項については、明示事項として定めることで、発注者側に有利な内容の契約書ひな形が使用されることが想定されることや、発注控えが生じる懸念があること、発注者側がフリーランスである場合に過度な負担となり得ることなどから、明示事項として義務付けることは必要ではないという考えが示されています。他方で、不当な給付内容の変更や不当なやり直しの問題が生じないように、同法第5条の特定業務委託事業者の遵守事項に関する考え方をガイドライン等において明らかにすることが期待されています。

 

(2) 同報告書において示された明示事項の方向性が基づく考え方

同報告書において示された明示事項の方向性は、以下のような考え方に基づくとされています。

 

ア 下請法第3条の書面の記載事項とされている項目については、同法の明示事項とすることが適当

フリーランス保護法は、発注者とフリーランスとの間のトラブルを未然に防止する趣旨で規定されたものであるところ、同様の趣旨に基づく下請法第3条の記載事項を、フリーランス保護法の明示事項とすることが適当であるという考え方が示されています。

なお、下請法において、いわゆる3条書面と呼ばれるこの書面に記載すべき事項とされているのは、以下のとおりです(下線部は筆者によります。)。

 ① 親事業者及び下請事業者の名称(番号、記号等による記載も可)
 ② 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
 ③ 下請事業者の給付の内容(委託の内容が分かるよう、明確に記載する。)
 ④ 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、役務が提供される期日又は期間)
 ⑤ 下請事業者の給付を受領する場所
 ⑥ 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は、検査を完了する期日
 ⑦ 下請代金の額(具体的な金額を記載する必要があるが、算定方法による記載も可)
 ⑧ 下請代金の支払期日
 ⑨ 手形を交付する場合は、手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
 ⑩ 一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付け又は支払可能額、親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
 ⑪ 電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
 ⑫ 原材料等を有償支給する場合は、品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日、決済方法

このうち、下請法では、「⑫原材料等を有償支給する場合の、その品名、数量、対価及び引渡しの期日並びに決済期日及び決済方法」については、フリーランス保護法には、下請法に定める有償の原材料等を支給した場合に、その対価を早期に決済することを禁止する規定がないため、明示も不要である旨が付言されています。

 

イ 特にデジタル払いを用いる場合に必要となる事項について明示事項とすることについて

上記では、デジタル払いが一定の要件の下で賃金の支払いとして認められることにも鑑み、デジタル払いを用いる場合に必要となる事項を明示事項とすることが考えられる旨が示されています。

 

3 フリーランス保護法第5条第1項における業務委託の期間

次に、フリーランス保護法第5条は、委託事業者が特定受託事業者に対し、政令で定める期間以上の期間業務委託を行う場合に、委託事業者が行ってはならない行為を定めています(太字下線部は筆者によります。)。

 (特定業務委託事業者の遵守事項)

 第五条 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条において同じ。)をした場合は、次に掲げる行為(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、第一号及び第三号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。

 一 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと。

 二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること。

 三 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること。

 四 特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること。

 五 特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。

 2 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、次に掲げる行為をすることによって、特定受託事業者の利益を不当に害してはならない。

 一 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

 二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた後)に給付をやり直させること。

 

この「政令で定める期間」について、同条の効果を広く及ぼすことや、下請法には期間の制限がないこと、さらに報酬減額や買いたたきなどはフリーランスにとって影響が大きいことなどを踏まえて、この政令で定める期間について、「1か月」と定める方向が適当であるとされています。

加えて、複数の業務を委託するに当たり、前後の業務委託の期間の間に一定の空白期間(具体的期間はガイドライン等に委ねられています。)が存在しても適用を認めるべきであることや、基本契約と個別契約に分かれている場合における基本契約の締結期間を基準とすることが適当であることも示されており、同法第5条の適用の有無を考えるに当たって注目されます。

なお、業務委託の継続期間については、同法第3章の就業環境の整備においても、適用判断に当たり業務委託の期間が問題となる規定が存在するため、今後、同章を所管する厚生労働省等との調整も求められるため、これによって変更が生じる可能性があります。

 

4 その他

上記に加えて、明示事項を明示する方法や、特に再委託の場合にどのような事項が明示事項に当たるかなどについての検討結果も示されています。その中には、ソーシャルネットワークサービス(SNS)を活用して上記の明示しなければならない事項を明示することを認める方向性なども含まれているため、今後のフリーランスの事業者とのやり取りの方法を考えるに当たり重要です。

 

5 まとめ

本稿では、同報告書に示された方向性を概観しました。これから、同法の施行に向けて、規則やガイドラインの制定の動きがより活発となることが見込まれます。本稿がフリーランスとの取引を行う体制の整備をスムーズに進める一助となれば幸いです。必要に応じて最新の動向や不明な点についてお近くの専門家にご相談ください。

 

 

以上


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執筆者
  • 山本 宗治
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