【I&S インサイト】オンライン診療に係る実務Q&A

執筆者:越田雄樹

 

昨今、新型コロナウイルスの流行もあり、医療の在り方が大きく変化しており、特に自宅にいるだけで診療を受けられる在宅医療、情報通信機器を用いた診療(オンライン診療)の需要が高まっております。

そして、厚生労働省は、オンライン診療について、オンライン診療の適切な実施に関する指針(以下「指針」といいます。)を公表しており、指針に従った運用を求めています。

以下では、医療関係法令、指針の内容及び医療関係事業者からのご相談を踏まえたオンライン診療に係る実務のポイントをQA形式でご紹介します。

 

Q1 オンライン診療とオンライン受診勧奨、遠隔医療などの線引きはどのようになっていますか。

 

A. 遠隔医療は、下の図のとおり、オンライン診療、オンライン受診勧奨、医学的助言を伴う遠隔健康医療相談、医学的助言を伴わない遠隔健康医療相談に大別できます。

このうち、オンライン診療、オンライン受診勧奨、医学的助言を伴う遠隔健康医療相談は、専門的な知識に基づく判断等が介在するものであり、「医業」(医師法第17条)にあたる行為になるため、医師しか行うことができません。

当該行為が「医業」にあたるかどうかを含めた線引きは容易ではなく、個別具体的な事案によって判断する必要があります。

なお、「医業」に係る整理は「医師法第17条「医業」の解釈」もご参照ください。

 

 

オンライン診療

遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為です。

 

例:

・高血圧患者の血圧コントロールの確認

・離島の患者を骨折疑いと診断し、ギプス固定などの処置の説明等を実施

 

オンライン受診勧奨

遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して患者の診察を行い、医療機関への受診勧奨をリアルタイムにより行う行為であり、患者からの症状の訴えや、問診などの心身の状態の情報収集に基づき、疑われる疾患等を判断して、疾患名を列挙し受診すべき適切な診療科を選択するなど、患者個人の心身の状態に応じた必要な最低限の医学的判断を伴う受診勧奨です。

 

例:

・発疹に対し問診を行い、「あなたはこの発疹の形状や色ですと蕁麻疹が疑われるので、皮膚科を受診してください」と勧奨する行為

 

(医学的助言を伴う)遠隔健康医療相談

遠隔医療のうち、医師-相談者間において、情報通信機器を活用して得られた情報のやりとりを行い、患者個人の心身の状態に応じた必要な医学的助言を行う行為。相談者の個別的な状態を踏まえた診断など具体的判断は伴わないものです。

(こちらは場合によっては「医業」に該当しないこともあります。)

 

(医学的助言を伴わない)遠隔健康医療相談

遠隔医療のうち、医師又は医師以外の者-相談者間において、情報通信機器を活用して得られた情報のやりとりを行うが、一般的な医学的な情報の提供や、一般的な受診勧奨に留まり、相談者の個別的な状態を踏まえた疾患のり患可能性の提示・診断等の医学的判断を伴わない行為です。

 

Q2 オンライン診療はチャットのみで行うことができますか。

 

A. オンライン診療をチャットのみで行うことはできません。

 

オンライン診療は、直接の対面診察と同等でないにしても、これに代替し得る程度の環境において、患者の心身の状態に関する有用な情報を得たうえで実施されることを前提としております。

そして、指針において、「オンライン診療の間などに、文字等により患者の病状の変化に直接関わらないことについてコミュニケーションを行うに当たっては、リアルタイムの視覚及び聴覚の情報を伴わないチャット機能(文字、写真、録画動画等による情報のやりとりを行うもの)が活用され得る。」とされていますが、一方で、「オンライン診療は、文字、写真及び録画動画のみのやりとりで完結してはならない。」とも規定されております。

そのため、オンライン診療をチャットのみで行うことはできず、チャットのみでオンライン診療を行った場合、医師法第20条違反となる可能性があります。

なお、オンライン診療の指針は令和4年にも改訂されておりますが、現状、チャットのみでの診療を認める趣旨で修正等されておりません。

 

Q3 オンライン診療では医師は病院にいる必要はありますか。

 

A. オンライン診療において、医師は医療機関(病院)に所在する必要はありません。

指針において、「医師は、必ずしも医療機関においてオンライン診療を行う必要はないが、騒音のある状況等、患者の心身の状態に関する情報を得るのに不適切な場所でオンライン診療を行うべきではない。また、診療の質を確保する観点から、医療機関に居る場合と同等程度に患者の心身の状態に関する情報を得られる体制を確保しておくべきである。

また、オンライン診療は患者の心身の状態に関する情報の伝達を行うものであり、当該情報を保護する観点から、公衆の場でオンライン診療を行うべきではない。」とされております。

したがって、オンライン診療において、医師は医療機関(病院)に所在する必要はありません。

ただし、屋外などオンライン診療を行うにあたって患者のプライバシー等が保護できない環境での診療は認められないと考えられます。

 

Q4 オンライン診療では患者は自宅にいる必要がありますか。

 

A. 患者は自宅以外、例えば、プライバシー保護及び衛生環境の担保された患者の職場やホテルなどであればオンライン診療を受けることができると考えられます。

 

医療法第1条の2第2項は、

医療は、国民自らの健康の保持増進のための努力を基礎として、医療を受ける者の意向を十分に尊重し、病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院、調剤を実施する薬局その他の医療を提供する施設(以下「医療提供施設」という。)、医療を受ける者の居宅等(居宅その他厚生労働省令で定める場所をいう。以下同じ。)において医療提供施設の機能に応じ効率的に、かつ、福祉サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図りつつ提供されなければならない。

と規定されています。

 

ここでいう「居宅等」については、医療法施行規則第1条において、

医療法(昭和23年法律第205号。以下「法」という。)第1条の2第2項の厚生労働省令で定める場所は、次のとおりとする。

一 老人福祉法(昭和38年法律第133号)第20条の4に規定する養護老人ホーム(第9条第3項第3号において同じ。)

二 老人福祉法第20条の5に規定する特別養護老人ホーム(第9条第3項第4号において同じ。)

三 老人福祉法第20条の6に規定する軽費老人ホーム(第9条第3項第5号において同じ。)

四 有料老人ホーム

五 前各号に掲げる場所のほか、医療を受ける者が療養生活を営むことができる場所であつて、法第1条の2第2項に規定する医療提供施設(以下単に「医療提供施設」という。)以外の場所

と規定されています。

そして、「療養生活を営むことができる場所」にあたるかどうかは、患者の生活環境やプライバシーの保護ができる環境か否か、当該場所の衛生環境等をもとに判断されると考えられます。

したがって、プライバシーが保護できる環境であり、衛生面も問題がない場合は、例えば、患者の職場やホテル等も「療養生活を営むことができる場所」に含まれると考えられるので、当該場所においてオンライン診療を受けることができます。

 

Q5 海外に所在する患者にもオンライン診療は行えますか。

 

A.国外に所在する患者に対するオンライン診療やオンライン受診勧奨についても、診察・診断・処方等の診療行為は国内で実施されており、医師法、医療法や本指針が適用されます。なお、オンライン診療等の実施に当たっては、患者の所在する国における医事に関する法令等も併せて遵守する必要があると考えられます。

 

Q6 オンライン診療でどのように医師及び患者の本人確認を行えばいいですか。

 

A.医師については、原則は、HPKI カード(医師資格証)、医師免許証の提示などの方法による本人確認が望ましいとされていますが、診療の都度本人確認書類の提示をすることが手間となり、逆に円滑な診療を妨げるケースなどが想定されます。

このような場合、例えば、オンライン診療の待機画面等に医師の写真付きの本人確認書類の画像を表示させる方法などによって、患者が容易に担当者が医師かどうかを判断できる仕様にすることが考えられます。

患者については、原則、健康保険証(被保険者証)、マイナンバーカード、運転免許証等の提示の方法による本人確認が望ましいですが、例えば、事前にアップロードする方法による本人確認を行うこともできると考えられます。ただし、この場合は、アップロードした画像について、医師が事前に確認することを担保できる仕様にすべきと考えられます。

 

Q7 オンライン診療に係る指針は保険診療と自由診療の両方に適用がありますか。

 

A.指針は自由診療及び保険診療に適用があります。保険診療においてオンライン診療を用いる場合は、別途、診療報酬の算定の基準等を参照する必要があります。

 

Q8 オンライン診療のシステムの利用料を請求することは可能ですか。

 

A. オンライン診療のシステムの利用料を請求することは可能です。ただし、保険診療において、予約に基づく診察による特別の料金の徴収はできないとされています。

 

まず、自由診療においては、オンライン診療のシステムの利用料の徴収は制限されておりません。

保険診療については、「医科診療報酬点数表に関する事項」において、「情報通信機器を用いた診療を行う際は、予約に基づく診察による特別の料金の徴収はできない。」「情報通信機器を用いた診療を行う際の情報通信機器の運用に要する費用については、療養の給付と直接関係ないサービス等の費用として別途徴収できる。」とされております。

したがって、保険診療においては、オンライン診療のシステムの利用料を請求することは可能ですが、予約に基づく診察による特別の料金の徴収はできないとされています。

 

Q9 対面診療とオンライン診療が選べる場合に、オンライン診療を選んでくれた患者にはギフトカード等を交付することは可能ですか。

 

A.自由診療においては、保険診療との紐づきがないと評価できる限り、オンライン診療を選んでくれた患者にギフトカード等を交付することは、可能であると考えられます。

一方で、保険診療においては、経済上の利益提供(療養担当規則第2条の4の2第1項)に該当する可能性があるため、オンライン診療を選んでくれた患者にはギフトカード等を交付することは控えるべきです。

自由診療は保険診療と異なり、療養担当規則第2条の4の2第1項のような規制はありませんので、オンライン診療を選んでくれた患者にギフトカード等を交付することは、可能であると考えられます。

ただし、当該医療機関において保険診療も行っており、保険診療への誘因にもあたるような場合には、保険診療との関係では経済上の利益提供(療養担当規則第2条の4の2第1項)に該当する可能性があります。

なお、経済上の利益提供に係る整理の詳細は「療養担当規則における経済上の利益提供等の禁止の整理」をご参照ください。

 

以上

 


 

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