【I&S インサイト】ウェブでの焦らせ方にご用心 ―「ダークパターン」と消費者を焦って購入させる手法―

執筆者:福島紘子

現在消費者庁では、「景品表示法検討会」において、景品表示法の改正の方向性についての議論が進んでおり、11月には検討すべき課題をまとめた「報告書骨子(案)」が示されました。

 

「骨子(案)」は、社会情勢の変化に応じた景品表示法の来るべきあり方について、4つの課題を挙げています。その4つとは、①消費者庁が景品表示法違反の疑いありとして調査を開始するきっかけとなる事案が増加し、消費者庁が事件を処理する期間が長期化していることから、事業者にできるだけ自主的に景品表示法を遵守するよう取り組んでもらうようにすること、悪質事業者に対し抑止力を強化させること、②デジタル化・国際化が進んでいることに対応すること、③返金措置など一般消費者の利益を回復させる方策を進めること、④適格消費者団体等との連携を強化したりダークパターンに対応したりすること、となっています。

 

今回の記事では、その中でも企業の皆さんにとってあまりなじみのないであろう④の「ダークパターン」の中から、「ダークパターン」典型例ともいえる、ウェブ上で消費者を焦らせて商品の早期購入を煽る表示手法について取り上げます。そして、景品表示法に限らず現行の消費者法がそうした手法をどのように規制しているか、さらには現行法の規制が及んでいない部分について整理したいと思います。

 

「ダークパターン」の典型としての消費者焦らせ手法

 

「ダークパターン」といっても、耳馴染みが少ないかもしれません。「ダークパターン」とは、欧米を中心に進められてきた議論であり、一般的に、消費者が気付かない間に不利な意思決定をするよう誘導するような仕掛けとなっているウェブデザインのこととされています1

 

言葉としては浸透していないかもしれませんが、「ダークパターン」の一類型である、「品切れ・時間切れ商法(カウントダウンタイマー等を使い、セールや取引が時間切れになりそうだと思わせたり、在庫がすくないことや問合せが多いこと等を強調し、商品・サービスが間もなく品切れになりそうであると示すこと。)」2は、ネット通販やネット予約サイト等のネット上での消費者トラブルとして、今や日本でも典型になりつつあります。現に、「カウントダウン表示、点滅やゆれるボタン」により、消費者が「商品の購入を焦らせられ、内容をよく確認せずに申し込まされる」(以下「焦らせ類型」)傾向にあり、早期の検討を求めるという要望が、「全国消費生活相談員協会」から上述の景品表示法検討会に寄せられたところです3

 

「ダークパターン」の焦らせ類型が「景品表示法検討会」の検討の俎上に載っていることからもおわかりのとおり、現在問題となっている焦らせ類型の全てが現行法で規制されているわけではありません。しかし裏返せば、景品表示法に限らず、現行の消費者取引に関する法律で規制がされるようなものもあります。

 

 

現行法での規制

(1)特商法での規制

まずは景品表示法と同じく消費者庁が所管し、企業の皆さんが商品・サービスのネット通販を行う際の規制法となる、特商法(「特定商取引に関する法律」(昭和51年法律第57号)について見てみましょう。

2022年の6月に全面施行になった令和3年改正特商法では、ネット通販のいわゆる最終確認画面において以下を表示しなければならないことが、新たに法律で定められました。最終確認画面とは、消費者が当該ウェブ画面内に設置されている申込みボタン等をクリックすることにより、契約の申込みが完了することとなる画面のことです。

 

 

「申込みの期間に関する定めがあるとき」とは、カウントダウンや期間限定販売等により、一定の期間を過ぎると、ある商品・サービスが購入できなくなるようにする場合のことです。消費者庁によれば、このような規定を新たに設けた目的は、企業側が申込期間について実態とは異なる表示を行い、当該商品が記載されている期間を過ぎればもう購入できなくなるから早く購入しなければならないと消費者を不当に焦らせ、購入させるような表示を防止するという点にあります4

 

このような趣旨から、「申込の期間に関する定めがある」場合には、①申込みの期間に関する定めがあるということ、そして②具体的な期間が、消費者にわかりやすい形で示す必要があると定められています。この場合、例えば「今だけ」など、具体的な期間が特定できないような形では、特商法上義務付けられる表示を行ったことにはなりません。

 

ただ最終確認画面の中に書くといっても、ユーザの見やすさの観点からも限界があると思われます。そこで、商品名の横に「〇〇(商品名)【お申込みは△月×日まで】」といった形で記す形でもいいですし、最終確認画面自体には記載せず、バナーやリンク先、アコーディオンメニューのような形で遷移してもらうことも可能です。

 

ここで、「ダークパターン」の一類型としての焦らせ手法という観点から注目すべきは、あくまで特商法で規制されているのは、商品・サービス自体が一定の申込期限をもって購入できなくなるようなケースに限られているということです。したがいまして、商品・サービス自体は購入できるものの、一定期間中のみ値引きを行うようなタイムセール(例:「○月×日までなら半額」)や、在庫がなくなった時点で販売を終了するような場合は、対象期間が限定されているとはいえ規制の対象外となります。

 

では消費者取引を対象とする法律の観点から、タイムセールや在庫がなくなった場合に販売終了というようなケースで、どのような表示をしても許されるのかといえば、そういうわけではありません。

 

(2)景品表示法での規制

ここで冒頭の景品表示法(「不当景品類及び不当表示防止法」昭和37年法律第134号)が登場します。景品表示法では、根拠なくいたずらに早期購入をあおることは、不当表示(同法5条)として問題となることがあるためです。

このような表示を、つい行ってしまいがちかもしれません。しかし本当は在庫が潤沢にあった場合はどうでしょうか。また、「今なら」と言っていたのに、同じようなキャンペーンを繰り返している場合はどうでしょうか。

景品表示法の違反になるかならないかは、一般消費者がその表示を見たらどのように思うかを考えることが、一番のポイントとなります。仮に消費者が、表示から認識した内容と実態との間に落差があると感じ、この落差がなければ買わなかったのにと思えば、その表示は不当表示に該当するリスクがあります。

では、問題の二つの表示を見て、消費者はどう感じるでしょうか。いずれでも、早く商品を購入しなければと焦るであろうと思われます。そして、仮に在庫が豊富にあったり、キャンペーンが繰り返されることにより、早めに注文する必要がなかったにもかかわらず、このような煽り表示を行っていた場合、そうだったら買わなかったのにと感じ、さらには騙された、と感じると思われます。だからこそそのような場合、これらの表示は不当表示と判断され得ることになります。

実際、上のような広告表示で、あたかも相当程度多数の注文を受けているかのように示す表示をしていたものの、実際の注文数は僅かであったという点で、消費者庁が措置命令を下した事例があります5。また、広告で「今なら」と記載し、あたかも期間限定で値引きが行われるような表示をしていたにもかかわらず、同様のキャンペーンを繰り返した事例でも、措置命令が下されています6

 

こうした焦らせ類型は、日本ではそうは名指しされていませんが、海外規制当局はダークパターンの一つとして問題視しているようです。例えば米国のFTC(連邦取引委員会)は、2022年9月、「実際には期限がないにもかかわらず消費者に製品やサービスを購入できる期間が限られていると思わせるようなカウントダウンタイマーなど」を、ダークパターンの典型の一つである「消費者を欺き、広告を偽装する」類型として、注意喚起を行っています7

 

 

現行法で規制されない焦らせ類型と注意点

ここまで、現行法による「ダークパターン」の焦らせ類型の規制について見てきました。繰り返しますと、特商法においては、消費者が商品・サービスの購入期間の実態を正しく理解できるような表示にすること、景品表示法においては、消費者がイメージする商品・サービスの購入期間と実態との間に齟齬のないことが規定されています。いずれの法律でも企業側に求められていることは、商品・サービスの購入期間を限定しているのであれば、それをきちんと表示することであり、期間限定表示をした以上は、実際にも表示どおり商品・サービスの購入期間を限定することである、と整理できます。

ここで、現行法では「ダークパターン」の焦らせ類型の何が規制されていないかも、おのずと明らかになったのではないかと思います。つまり現在の特商法と景品表示法では、ウェブ上の表示により消費者を焦らせて商品・サービスを購入させること自体が規制されているのではなく、必要な表示をしないこと、または不当な表示をすることにより、消費者の誤解をもたらすことが規制されています。FTCの表現をかりれば、日本法でもやはり「偽装」が問題になっているといえるのです。

そうしますと、日本の現行法では、どのような表現方法を使っても、例えば点滅を繰り返すボタンにより消費者が焦って購入し、購入後に購入したことを後悔したとしても、それが「期間」について真実を告げており、消費者の誤認・誤解を誘発しなければ、「偽装」と判断されず規制はされない、ということにひとまずはなりそうです。

しかしこの結論は、いざそのような通販サイトなり予約サイトなりを実装しようとすると、それほど簡単なことではないように思われます。「消費者の誤認・誤解を誘発しなければ」という点が、あくまで消費者目線で判断されるため、企業サイドとしてはそのつもりはなくとも「消費者の誤認・誤解を誘発」した、と判断されかねないためです。

したがいましてウェブ上で消費者との取引を行われているような企業の皆さまにおかれましては、冒頭の景品表示法の改正の方向性についての議論の行方を注視しつつ、消費者を焦らせて「誤認・誤解を誘発」しないようなウェブデザインを工夫していくことが求められているのではないかと考えます。

 

 


  1. OECDによれば、”Although there is now no universally agreed definition of the concept, dark commercial patterns are understood by some as user interfaces used by some online businesses to lead consumers into making decisions they would not have otherwise made if fully informed and capable of selecting alternatives (Mathur et al., 2019). Some dark commercial patterns deceive consumers while others covertly manipulate or coerce them into choices that are not in their best interests.”とされています(”Roundtable on Dark Commercial Patterns Online”, 2021, p.3https://www.oecd.org/officialdocuments/publicdisplaydocumentpdf/?cote=DSTI/CP(2020)23/FINAL&docLanguage=En))。
  2. ”Roundtable on Dark Commercial Patterns Online”, 2021,p.13 https://www.oecd.org/officialdocuments/publicdisplaydocumentpdf/?cote=DSTI/CP(2020)23/FINAL&docLanguage=En))。
  3. https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/assets/representation_cms212_220914_09.pdfをご参照下さい。
  4. 消費者庁「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」(2022年)p.6。(https://www.no-trouble.caa.go.jp/pdf/20220601la02_07.pdf)。
  5. 葛の花由来イソフラボンを機能性関与成分とする機能性表示食品の販売事業者16社に対する措置命令(平成29年11月7日。(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000189521.pdf))。
  6. フィリップ・モリス・ジャパン合同会社に対する景品表示法に基づく措置命令(令和元年6月21日。(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/release/2019/pdf/fair_labeling_190621_0001.pdf))。
  7. FTC, “FTC Report Shows Rise in Sophisticated Dark Patterns Designed to Trick and Trap Consumers”(Sep 15, 2022)(https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2022/09/ftc-report-shows-rise-sophisticated-dark-patterns-designed-trick-trap-consumers)をご参照下さい。

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  • 福島 紘子
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