【I&S インサイト】「修理する権利」~サードパーティ製部品の使用等を困難にする行為の競争法上の問題点と保証~

執筆者:安井綾

はじめに

「修理する権利(Right to Repair)」に関わる米国・欧州における動向については、これまでのインサイト記事でご紹介してきましたが、(修理する権利の新たな展開について2022523日、修理する権利(Right to Repair)20211110日))、この「修理する権利」に関連して、20221027日、米国連邦取引委員会(以下「FTC」といいます。)が、二輪車(オートバイ)メーカーのHarley-Davidson Motor Company Group、グリルメーカーのWeber-Stephen Products、アウトドア発電機メーカーのMWE Investmentsに対し、非純正品の使用により保証が無効になる旨の保証条項を使用していたこと等が、マグナソン・モス保証法(Magnuson-Moss Warranty Act)及びFTC規則に違反するとし、違反行為を取りやめること等を命じる命令を行いました1

今回は、本件を中心に米国における「修理する権利」の状況をご紹介したいと思います。

 

「マグナソン・モス保証法」とは

米国のマグナソン・モス保証法(Magnuson Moss Warranty Act)は、FTCが規制権限を持つ連邦法で、一般消費者向け商品を対象とする製品保証に関する規制を行っています。FTCは、マグナソン・モス保証法の目的につき、「保証内容が、消費者に対して適切に示されること、さらに、これにより商品が比較検討されることによって、競争が促進されること」などにあると説明しており2、 競争法の理念を持つことを明らかにしています。1975年に成立した法律ですが、2018年、日本企業を含む複数の大手企業が同法に基づく警告を受けて保証条項を見直したと報道されたことなどから、近年、日本においても関心を集めるようになりました。

マグナソン・モス保証法は、一般消費者向けの物品の取引のみを対象としており、サービスの提供には適用されません。また、保証書その他の保証条項に関する書面を提供しない場合には適用されません。しかし、保証書を発行する場合には、同法の規定に従う必要があります。また、保証書に関しては米国の各州にも州法の定めがありますので、州法の内容を確認することも必要です。

  

マグナソン・モス保証法による規制

では、マグナソン・モス保証法では、具体的にはどのような規制が行われているのでしょうか。

米国の各州法では、物品を販売する売主は、基本的な担保責任(黙示の保証)の一つとして「商品性(merchantability)の保証」を行っており、その責任を負うと考えられています。商品性とは、当該目的物が通常の目的による使用に適しており、平均的な品質を有することを意味します。例えば、オーブンの小売業者は、買主に対し、そのオーブンが売り物として適切な状態にあって、ユーザーが指定した温度で食品を焼くことができる、ということを約束しているということです。違反があれば、売主は買主に修理などの救済方法(remedy)を提供しなければなりません。

マグナソン・モス保証法では、同法の適用のある取引においては、原則として、黙示の保証の排除(保証に基づく義務の免責)、変更は禁止されます。すなわち、マグナソン・モス保証法の適用がある場合には、どのような保証内容を記載しても、消費者は、必ず黙示の保証を得られることになります(ただし、保証期間については州法の定めから短縮できる場合があり、また、メーカーの保証がある場合は、小売業者が保証する必要がなくなる場合もあります)。

また、同法は、保証書は商品販売前に提供できるよう準備する必要があると定めています。その商品の購入を検討している消費者に対して、どのような保証が得られるのかをあらかじめ明確に示し、他の商品を比較検討して購入できるようにすることで、製造・販売する事業者の競争を促進できるという考え方によるものです。

 

本件の違反行為

FTCの公表文によると、Harley-Davidson Motor Company Group(以下「Harley-Davidson」といいます。)とMWE Investmentsの保証書は、ユーザーが、自社若しくは認定ディーラー以外の独立系のディーラーで修理し、またはこうしたディーラーで扱う部品を使用した場合は、保証は無効になるとしていました3。また、Weber-Stephen Productsの保証書においても、同社のグリル製品にサードパーティ製の部品を使用すると保証が無効となると規定されていました4

マグナソン・モス保証法では、上述の規制のほか、保証を受ける条件として、特定の商品の購入やサービスの利用をすることを条件とすることが禁止されています(”Tie-In Sales” Provisions。売主側が無償で提供する場合、FTCの承認を得た場合は除きます)。例えば、電気掃除機について、純正の集塵パックを使用しなければ掃除機本体の保証が受けられないという場合です。なお、マグナソン・モス保証法においても、自社が提供していない部品やサービスによって目的物に不具合、損傷が生じた場合に保証の対象外とすることは認められています。

また、Harley-Davidsonについては、保証条項が一通の書面に全て記載されておらず、保証の内容の詳細を認定ディーラーに問い合わせると分かる仕組みになっていました。この点もFTCがマグナソン・モス保証法につき定めた開示規則(the Rule on Disclosure of Written Consumer Product Warranty Terms and Conditions)に違反すると認定されました。マグナソン・モス保証法の実効性を担保するための規制といえます。

メーカーの指定した部品や、認定ディーラーでの修理をしなければ保証を一切受けられないという条件を付すことは、ユーザーに対して、独立系修理業者への修理の依頼を躊躇させる大きな要素になり得ます。FTCは、各事件のプレスリリース文においても、本件の保証条項は消費者の修理する権利を制限する内容であったと説明されています5

 

日本における製品保証

日本においては、民法に契約不適合責任の規定があり(民法562条以下)、民法の一般条項や消費者契約法等で問題となるような場合を除いて、売主の担保責任は特約で縮小、変更できるとされています。また、米国のマグナソン・モス保証法のように、売主が保証書を商品販売前に提示できるよう準備する一般的な義務はなく、保証の内容を具体的に規制するルールもありません。しかし、以前のインサイト記事でもご紹介したとおり、日本の独占禁止法においても、取引妨害(独禁法296号ヘ前段、一般指定14項)、抱き合わせ販売(独禁法296号ハ、一般指定10項)に該当するとされた事例の中には、例えば、東芝エレベータテクノス事件のように、「エレベーターの事故により保守部品が必要となった場合でも、部品の取替え調整工事を依頼しないのであれば、部品単体での供給はしない」と拒否する行為が、買主の商品選択の自由を失わせ、事業者間の公正な能率競争を阻害するものであって、抱き合わせ販売に当たると判示されるなど、上記の「修理する権利」の議論と同様の状況にあると考えられるものがあります。

日本の独占禁止法に違反するかどうかは、事案の内容、市場の状況等を勘案し事案ごとに個別に判断されるものですが、上述の米国の事件の保証条項の定めは、事案によっては、これらの独禁法違反行為の一手法であると評価される可能性があります。

 

米国の「修理する権利」と今後

2021721日、FTCは「メーカー及び販売者による修理制限についてのFTCの施政方針」を公表しました6。この中で、FTCは、202156日に公表した報告書(インサイト参照)の内容を受け、FTCにおいてこの10年でわずか1件の執行実績しかなかったマグナソン・モス保証法の執行につき、広く一般からの申告を募るなどして、執行を強化する予定であること、また、反トラスト法違反行為に該当する修理制限行為の調査を行うことを明らかにしています。

なお、上記の施政方針の中で、有害な電子機器ごみの削減といった目的も織り込まれています。この点は、欧州の「サステナビリティ」の観点からのアプローチとも通じるものがあり、米国における「修理する権利」も、純粋な競争法だけの議論ではないように思われます7

20226月には、ニューヨーク州議会において、修理に必要な情報や部品の提供をメーカーに義務付ける法案が可決されています。こうした流れを受けて、アップルは2022年、電池、ディスプレー等の部品や必要な工具をサイトから購入した上で、消費者が自分でiPhoneを修理できる「セルフ・サービス・リペア」の取組みを米国で開始し8、サムスン電子9、グーグルも純正部品の販売やマニュアルの提供を開始ししています10

これまで、日本においては、メーカーがサードパーティ製の部品の流通や修理業者の修理が困難になるような仕組みを構築することが独禁法上の問題を生じうるということについて、あまり大きな関心が向けられてこなかったと思います11。製品に関して多額の研究開発費を投じて得られた貴重な知的財産があること、安全性に懸念が生じることなど、考慮すべき要素はありますが、昨今の「修理する権利」の議論を踏まえると、漠然とこうした正当化の議論をするだけでは通用しない場合も考えられ、例えば、具体的にサードパーティ製品の利用でどのような安全上の問題が生じうるのか等、より精緻な分析が求められつつあると言えます。

企業活動がグローバル化し、競争政策、当局の執行もまた、各国が互いに影響を受け合って行われています。「修理する権利」の議論が今後どのように展開し、日本の独占禁止法の実務に影響を与えていくのか、引き続き注意が必要です。

 

 

 

  1. FTC Approves Final Orders in Right-to-Repair Cases Against Harley-Davidson, MWE Investments, and Weber 2022年10月27日

    (https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2022/10/ftc-approves-final-orders-right-repair-cases-against-harley-davidson-mwe-investments-weber)

  2. Businessperson's Guide to Federal Warranty Lawhttps://www.ftc.gov/business-guidance/resources/businesspersons-guide-federal-warranty-law
  3. FTC Takes Action Against Harley-Davidson and Westinghouse for Illegally Restricting Customers’ Right to Repair

    (https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2022/06/ftc-takes-action-against-harley-davidson-westinghouse-illegally-restricting-customers-right-repair-0)

  4. FTC Takes Action Against Weber for Illegally Restricting Customers’ Right to Repair (https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2022/07/ftc-takes-action-against-weber-illegally-restricting-customers-right-repair)
  5. FTC Takes Action Against Harley-Davidson and Westinghouse for Illegally Restricting Customers’ Right to Repair

    (https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2022/06/ftc-takes-action-against-harley-davidson-westinghouse-illegally-restricting-customers-right-repair-0)

  6. Policy Statement of the Federal Trade Commission on Repair Restrictions Imposed by Manufacturers and Sellers (https://www.ftc.gov/legal-library/browse/policy-statement-federal-trade-commission-repair-restrictions-imposed-manufacturers-sellers)
  7. 日本における「サステナビリティ」の観点からのアプローチとしても、資源の効率的・循環的な利用を図りつつ付加価値の最大化を図る「循環経済」(サーキュラーエコノミー)へのトランジションを図るための取組が進められています。経済産業省は、20205月に「循環経済ビジョン 2020」を策定し、202210月には第1回成長志向型の資源自律経済デザイン研究会を開催して、成長志向型の資源自律経済の確立に向けた総合的な政策パッケージの検討を進めることとしています。
  8. https://support.apple.com/irp-program
  9. https://www.samsung.com/us/support/service/independent-service-provider/
  10. https://blog.google/outreach-initiatives/sustainability/pixel-phone-repairs/
  11. なお、日本において個人が電子機器を修理する場合、技術基準適合証明(技適)に抵触する可能性があることも指摘されています。

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