【I&S インサイト】[連載③]令和5年景品表示法(景表法)改正法案の解説と実務的課題(課徴金制度における返金措置の弾力化)

執筆者:染谷隆明

 

【連載③課徴金制度における返金措置の弾力化】
令和5年景品表示法改正法案の解説と実務的課題
〜確約手続・直罰導入後の景表法の展望〜

 

本稿は令和5年景表法改正法案の解説実務的課題に関する連載の第3回です。ここでは、新たに導入される課徴金制度における返金措置の弾力化について解説します。本連載の目次は下記のとおりです。

 

令和5年景品表示法改正法案の解説と実務的課題 目次


〜【連載①概要】〜

 

Ⅰ    令和5年景表法改正法案の概要
Ⅱ    令和5年景表法改正法案の検討経過
Ⅲ    令和5年景表法改正法案の解説
 1 条ずれの発生
  【Column1:枝番号方式か、条ずれ方式か?】
 2 措置命令の送達手続の整備(7条3項関係)

 

〜【連載②課徴金額の算定規定の拡充】〜

 

 3 課徴金額の算定規定の拡充(8条4項・5項・6項関係)
  【Column2:消費者庁長官の措置命令調査における報告徴収等と「基準日」の関係】
  【Column3:都道府県知事の措置命令調査における報告徴収等と「基準日」の関係】
  【Column4:再度課徴金対象行為をした事業者が「基準日」前に合併で消滅した場合の処理 】
  【Column5:課徴金額が割り増した場合における8条1項に基づく課徴金納付命令と薬機法の課徴金納付命令(薬機法75条の5の3)の関係】

 

〜【連載③課徴金制度における返金措置の弾力化】〜

 

 4 課徴金制度における返金措置の弾力化(10条1項関係)
  【Column6:返金措置の更なる促進へ向けた提案】


〜【連載④確約手続の導入】〜


 5 確約手続の導入(26条〜33条関係)
  【Column7:都道府県知事を確約手続の通知及び認定主体とするための条件】
  【Column8:是正措置計画等の認定と薬機法の課徴金納付命令の関係】
  【Column9:是正措置計画等に関する争訟方法(訴訟形式・訴訟要件を中心に)】
  【Column10:景品規制と確約手続】


〜【連載⑤適格消費者団体による合理的根拠資料の開示要請】〜


 6 適格消費者団体による合理的根拠資料の開示要請規定の導入(35条関係)
 7 国際化の進展への対応(41条関係)


〜【連載⑥直罰と施行準備】〜


 8 罰則規定の拡充(48条関係)
  【Column11:直罰規定の共犯の活用の途】
 9 施行準備と検討規定

Ⅳ 最後に

 

Ⅲ 令和5年景表法改正法案の解説

 

4 課徴金制度における返金措置の弾力化(10条1項)

 

(1) 立法事実

不当表示によって一般消費者に生じた被害の回復を促進する観点から、事業者が所定の手続に沿って返金(返金措置)を実施した場合には、課徴金額を減額する又は課徴金の納付を命じないこととされています(10条)。しかし、平成28年4月1日から令和4年11月に至るまで認定された返金対象は4件しかありません1。その理由は、返金措置の費用の高さ(返金方法が金銭の交付に限定されていること、銀行振込費用が高額になること、口座情報などの新たな個人情報の取得など)に起因すると考えられます2。そこで、一定の要件を満たす電子マネーの交付も返金措置の内容に含めることとする規定を新設しました(10条1項)。これにより返金に比べて実施費用の低下を見込める場合があり、返金措置が活用されることが期待されます。

 

 (返金措置の実施による課徴金の額の減額等)
第10条 第15条第1項の規定による通知を受けた者は、第8条第2項に規定する課徴金対象期間において当該商品又は役務の取引を行つた一般消費者であつて政令で定めるところにより特定されているものからの申出があつた場合に、当該申出をした一般消費者の取引に係る商品又は役務の政令で定める方法により算定した購入額に百分の三を乗じて得た額以上の金銭(資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第三条第七項に規定する第三者型発行者が発行する同条第一項第一号の前払式支払手段その他内閣府令で定めるものであつて、金銭と同様に通常使用することができるものとして内閣府令で定める基準に適合するもの(以下この項において「金銭以外の支払手段」という。)を含む。以下この条及び次条第二項において同じ。)を交付する措置(金銭以外の支払手段を交付する措置にあつては、当該金銭以外の支払手段の交付を承諾した者に対し行うものに限る。以下この条及び次条において「返金措置」という。)を実施しようとするときは、内閣府令で定めるところにより、その実施しようとする返金措置(以下この条において「実施予定返金措置」という。)に関する計画(以下この条において「実施予定返金措置計画」という。)を作成し、これを第十五条第一項に規定する弁明書の提出期限までに内閣総理大臣に提出して、その認定を受けることができる。

 

(2) 要件

ア 「資金決済に関する法律…第3条7項に規定する第三者型発行者が発行する同条1項1号の前払式支払手段その他内閣府令で定めるもの」であること

 

 資金決済法3条7項に規定する第三型発行者とは、金融庁長官から第三者型発行者の登録を受けた法人をいいます(同法7条)。そして、「金銭以外の支払手段」に該当するためには、第三者型発行者が発行する前払式支払手段(ただし同法3条1項2号に該当するものを除く)である必要があります。なお、前払式支払手段には、自家型前払式支払手段(例えばゲーム内通貨などが典型例であり、原則として前払式支払手段の発行者のみ行使可能なものをいう(同法3条4項)。)と第三者型前払式支払手段(例えば交通系ICなどが典型例であり、自家型前払式支払手段以外の前払式支払手段をいう(同法3条5項)。)がありますが、10条1項は、「第三者型発行者が発行する同条1項1号の前払式支払手段」としか規定していません。したがって、第三者型発行者が発行する第三者型前払式支払手段のみならず、自家型前払式手段であっても「金銭以外の支払手段」の対象となり得るものと考えられます。

「内閣府令で定めるもの」としては、例えば、自他共通割引券(総付告示32項3号、総付告示運用基準4)の要件を充足する共通ポイントなどが定められることが想定されます。

 

イ 「金銭と同様に通常使用することができるものとして内閣府令で定める基準に適合するもの」であること

 

「第三者型発行者が発行する…前払式支払手段その他内閣府令で定めるもの」に該当しても、「内閣府令で定める基準に適合するもの」でなければ、「金銭以外の交付手段」に該当しません。具体的な規律は内閣府令の制定を待つこととなりますが、内閣府令の内容として「金銭と同様に通常使用することができるもの」という要件が要求された趣旨は次のとおりだと考えられます。すなわち、元々返金措置がその方法を「金銭の交付」に限っていた趣旨は、一般消費者にとって商品交換その他金銭の交付以外の方法では、依然として、他の事業者の商品等も含めた自主的かつ合理的な選択をすることができないことによるものでした5。そのため、他の事業者の商品等も含めた自主的かつ合理的な選択することができる支払手段を一般消費者に交付するのであれば、一般消費者は自主的かつ合理的な商品等の選択を改めてすることが可能となります。このため、「金銭以外の支払手段」に「金銭と同様に通常使用することができるもの」という基準が求められるわけです。

この観点から、内閣府令では、「第三者型発行者が発行する…前払式支払手段その他内閣府令で定めるもの」の一定以上の加盟店数(利用が可能な店舗数)や利用期間(他の事業者の商品等も含めた自主的かつ合理的な選択することができる程度の期間)などを定めることが想定されます。

 

ウ 「金銭以外の支払手段の交付を承諾した」こと

 

「金銭以外の支払手段」によって返金措置を行う場合には、「金銭以外の支払手段」の交付を承諾したことも要件となります。実務上は、返金措置の申込みフォームなどで一般消費者から「金銭以外の支払手段」で受け取ることの同意をとるという対応をとるものと想定されます。

 

(3) 効果

 

上記要件を満たす場合は、「返金措置」に該当するため、適式の手続を経た場合には交付相当額が課徴金額から減額されます(11条2項)。

 

●Column6:返金措置の更なる促進へ向けた提案
 令和5年景表法改正案が成立した場合、一定の電子マネーによる「返金措置」が可能となるため、返金措置の実施が促進されるでしょう。しかし、返金措置の使いづらさが完全に解消されるわけではないと考えられます。例えば、11条1項に基づく認定実施予定返金措置計画の実施結果の報告事項として「氏名・名称」が挙げられているため、「返金措置」対象者の「氏名・名称」も返金措置を実施する際に取得する必要があります(景表法施行規則15条及び様式第5)。しかし、少なくとも電子マネーで「返金措置」を実施する場合、金銭を振込む必要がないので口座情報を取得する必要がなく、したがって「氏名・名称」が不要となる場合があり得ます。すなわち、課徴金対象期間に課徴金対象行為に係る商品等を購入したことを事業者が元々有しているIDなどの識別子で特定さえすれば、電子マネーによる「返金措置」は可能である場合があるわけです。このような場合に、「氏名・名称」の報告を求めることは、事業者に過度な負担を強いて、ひいては返金措置の利用が促進されません。したがって、このような場合、「氏名・名称」でない方法によって購入者を特定する方法を報告事項として是認すべきであり、内閣府令の改正が必要となるものと考えられます。

 

次回連載④は、課徴金制度における返金措置の弾力化について解説します。

【連載④確約手続】はこちら

 


 

  1. 消費者庁ホームページ「認定された返金措置一覧」
  2. 染谷隆明「広告・表示規制 景品表示法」(中田邦弘=鹿野菜穂子編著「基本講義 消費者法[第5版]」(2022年、日本評論社)244頁)
  3. 一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限(昭和52年公正取引委員会告示5号)
  4. 「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準(昭和52年事務局長通達6号)
  5. 黒田岳士=加納克利=松本博明編著「逐条解説 平成26年11月改正景品表示法」(2015年、商事法務)64頁

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