【I&S インサイト】[連載③]令和5年景品表示法(景表法)改正法案の解説と実務的課題(課徴金制度における返金措置の弾力化)
DATE 2023.03.30
執筆者:染谷隆明
【連載③課徴金制度における返金措置の弾力化】
令和5年景品表示法改正法案の解説と実務的課題
〜確約手続・直罰導入後の景表法の展望〜
本稿は令和5年景表法改正法案の解説実務的課題に関する連載の第3回です。ここでは、新たに導入される課徴金制度における返金措置の弾力化について解説します。本連載の目次は下記のとおりです。
令和5年景品表示法改正法案の解説と実務的課題 目次
Ⅰ 令和5年景表法改正法案の概要
3 課徴金額の算定規定の拡充(8条4項・5項・6項関係)
〜【連載③課徴金制度における返金措置の弾力化】〜
4 課徴金制度における返金措置の弾力化(10条1項関係) 5 確約手続の導入(26条〜33条関係) 6 適格消費者団体による合理的根拠資料の開示要請規定の導入(35条関係) 8 罰則規定の拡充(48条関係) Ⅳ 最後に |
Ⅲ 令和5年景表法改正法案の解説
4 課徴金制度における返金措置の弾力化(10条1項)
(1) 立法事実
不当表示によって一般消費者に生じた被害の回復を促進する観点から、事業者が所定の手続に沿って返金(返金措置)を実施した場合には、課徴金額を減額する又は課徴金の納付を命じないこととされています(10条)。しかし、平成28年4月1日から令和4年11月に至るまで認定された返金対象は4件しかありません1。その理由は、返金措置の費用の高さ(返金方法が金銭の交付に限定されていること、銀行振込費用が高額になること、口座情報などの新たな個人情報の取得など)に起因すると考えられます2。そこで、一定の要件を満たす電子マネーの交付も返金措置の内容に含めることとする規定を新設しました(10条1項)。これにより返金に比べて実施費用の低下を見込める場合があり、返金措置が活用されることが期待されます。
(返金措置の実施による課徴金の額の減額等) |
(2) 要件
ア 「資金決済に関する法律…第3条7項に規定する第三者型発行者が発行する同条1項1号の前払式支払手段その他内閣府令で定めるもの」であること
資金決済法3条7項に規定する第三型発行者とは、金融庁長官から第三者型発行者の登録を受けた法人をいいます(同法7条)。そして、「金銭以外の支払手段」に該当するためには、第三者型発行者が発行する前払式支払手段(ただし同法3条1項2号に該当するものを除く)である必要があります。なお、前払式支払手段には、自家型前払式支払手段(例えばゲーム内通貨などが典型例であり、原則として前払式支払手段の発行者のみ行使可能なものをいう(同法3条4項)。)と第三者型前払式支払手段(例えば交通系ICなどが典型例であり、自家型前払式支払手段以外の前払式支払手段をいう(同法3条5項)。)がありますが、10条1項は、「第三者型発行者が発行する同条1項1号の前払式支払手段」としか規定していません。したがって、第三者型発行者が発行する第三者型前払式支払手段のみならず、自家型前払式手段であっても「金銭以外の支払手段」の対象となり得るものと考えられます。
「内閣府令で定めるもの」としては、例えば、自他共通割引券(総付告示32項3号、総付告示運用基準4)の要件を充足する共通ポイントなどが定められることが想定されます。
イ 「金銭と同様に通常使用することができるものとして内閣府令で定める基準に適合するもの」であること
「第三者型発行者が発行する…前払式支払手段その他内閣府令で定めるもの」に該当しても、「内閣府令で定める基準に適合するもの」でなければ、「金銭以外の交付手段」に該当しません。具体的な規律は内閣府令の制定を待つこととなりますが、内閣府令の内容として「金銭と同様に通常使用することができるもの」という要件が要求された趣旨は次のとおりだと考えられます。すなわち、元々返金措置がその方法を「金銭の交付」に限っていた趣旨は、一般消費者にとって商品交換その他金銭の交付以外の方法では、依然として、他の事業者の商品等も含めた自主的かつ合理的な選択をすることができないことによるものでした5。そのため、他の事業者の商品等も含めた自主的かつ合理的な選択することができる支払手段を一般消費者に交付するのであれば、一般消費者は自主的かつ合理的な商品等の選択を改めてすることが可能となります。このため、「金銭以外の支払手段」に「金銭と同様に通常使用することができるもの」という基準が求められるわけです。
この観点から、内閣府令では、「第三者型発行者が発行する…前払式支払手段その他内閣府令で定めるもの」の一定以上の加盟店数(利用が可能な店舗数)や利用期間(他の事業者の商品等も含めた自主的かつ合理的な選択することができる程度の期間)などを定めることが想定されます。
ウ 「金銭以外の支払手段の交付を承諾した」こと
「金銭以外の支払手段」によって返金措置を行う場合には、「金銭以外の支払手段」の交付を承諾したことも要件となります。実務上は、返金措置の申込みフォームなどで一般消費者から「金銭以外の支払手段」で受け取ることの同意をとるという対応をとるものと想定されます。
(3) 効果
上記要件を満たす場合は、「返金措置」に該当するため、適式の手続を経た場合には交付相当額が課徴金額から減額されます(11条2項)。
●Column6:返金措置の更なる促進へ向けた提案 |
次回連載④は、課徴金制度における返金措置の弾力化について解説します。
【連載④確約手続】はこちら
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